セカンドキャリアをどう築く? 57歳で大手ビール会社を早期退職、夢の国で清掃スタッフになった第2の人生
企業人キャリアから一転、「夢の国」のスタッフに
早期退職から3カ月後。笠原さんは、東京ディズニーランドのカストーディアルキャスト(清掃スタッフ)として、パークデビューを果たします。 「退職前の半年間は、退職準備休暇があったので海外旅行をしたりして、会社員時代では味わえないゆっくりとした時間を過ごしました。雇用保険の受給のために、ハローワークにも通いましたよ。セカンドキャリアについて具体的に考えたのは、その頃です」 早期退職をした同期の中には、酒類業界に再就職する人もいたそうですが、「全く違う仕事をしてみたかった」という笠原さん。 漠然とした思いが、はっきりとした形になったのは、何げなく手にした雑誌がきっかけでした。 「東京ディズニーシーでキャストをしている64歳の女性の記事に目が留まりました。『ゲストとの出会いの毎日が楽しい』と話す彼女のまぶしいほどの笑顔に、これだ!と。再就職先として応募したのは、ここ一つです。 それに、子どもたちが幼い頃から何度も家族でディズニーランドを訪れていたんですよね。『ディズニーランドが大好き!』とは思っていなかったのですが、よく考えれば一時期は年パスも持っていて、私にとって楽しい思い出がいっぱい詰まった場所だったんです」 オリエンタルランド本社(千葉県)で採用担当者と1対1で面接し、待つこと2週間。希望していた「カストーディアルキャスト」への採用通知が届きました。雇用保険の受給期間はまだ残っていましたが、セカンドキャリアへと一歩を踏み出しました。 内勤の仕事が多かったファーストキャリアとは反対に、一日中外で働くというセカンドキャリアがスタートしました。
自主性ある“歩くコンシェルジュ”に魅力
「カストーディアルキャストとは、清掃スタッフのことですが、“歩くコンシェルジュ”とも言われており、ゲストへの案内や写真撮影の手伝いなどもします。 担当するエリア内を清潔に保つこととゲストの思い出作りの手伝いをミッションに、担当エリアを自由に歩き回って自主的に行動できるので性に合っていました」 キャストになり始めたころは、終始笑顔でいることや都市伝説のような応対を求められることに困惑することも。 「例えば、パーク(園内)をスイーピング(掃除)していると、『何をしているのですか?』とゲストから尋ねられることがあります。清掃していることは見ればわかることなので、奇妙な質問だと思っていたのですが、同僚に聞いたところ『夢のカケラを集めています』というキャストの返答を期待していると知りました。実は、こういった問答集のようなものに決まった答えはないんです。キャスト同士で情報交換したり、自分らしさを加えたり。ディズニーの世界観を大切にしながらキャストの一人として“演じる”ことも、やりがいにつながっていきました」 掃除エリアは決まっているとはいえ、勤務時間中ぐるぐるそのエリアを歩いて掃除を続ける仕事。1日で3万歩以上歩くこともよくありました。雨や雪、真夏の暑さなど悪天候の日は、体力的に辛いこともありましたが、ゲストの笑顔に励まされることも多かったと話す笠原さん。 「1日に1度でもゲストと良い時間を共有できれば、それが明日へのモチベーションになりました。また、ゲストに楽しい時間を提供することができたという実感は、この仕事の喜びでもありました」 無遅刻無欠勤で、週5日働き続けた。 2018年3月、8年間の勤務を経て65歳で定年退職。通算勤務時間は約9600時間だった。 こうしてキリンビール時代を含めて42年の“勤め人人生”に終止符を打ちました。