”積水ハウス地面師事件”の犯人は有名デベロッパーの「元財務部長」…犯人の知人が語るその巧妙な詐欺テクニックとは
社名を変えて、なりきる
「まず小山は、旧知の不動産業者仲間から名古屋の休眠会社を買い取り、そこの代表に就任しました。それを『東京音楽アカデミー』と社名変更し、都内に音楽アカデミー名義の銀行口座をつくった。銀行は富ヶ谷に近い渋谷駅前支店を選び、いかにもそれらしく見せかけています。そうしておいて、買い手の不動産会社になりすましを紹介し、ニセの口座に売買代金の手付金を振り込ませたのです」 一口に「音楽アカデミー」といっても、その名称のついた通信教育の音楽学校は全国に数多く存在する。なかでも東京にある「東京音楽アカデミー」は、複数あるので紛らわしい。つまり、数ある東京音楽アカデミーのうち、どこが富ヶ谷の地主なのか、そもそもわかりづらいので、勘違いしやすい。 というより北田や小山たちは、そこに目を付けたといえる。休眠会社を買い取って「東京音楽アカデミー」という社名に変更すれば、いかにもそれらしく見える。前述したように通信教育などしていない休眠のペーパー会社なのだが、買い手の不動産業者も、銀行の口座名が同じなのでニセモノだとは疑わない。そうしてまんまと手付金を振り込ませたのだ。再び小山の知人が次のようなエピソードを明かした。 「彼らにしてみたら、積水を手掛ける前なので手持ち資金に困っていたのかもしれません。手付金が振り込まれたすぐあと、小山が渋谷駅前支店のATMに現れ、そこで現金300万円を引き出しています。それが銀行の防犯カメラにばっちり映っており、動かぬ証拠となっているといいますから、刑事も捜査しやすかったのでは……」 警視庁捜査二課は捜査を進めた。東京音楽アカデミーと積水ハウスという二段構えの事件捜査といえる。そして捜査二課は東京音楽アカデミーの捜査を進めながら、そのネタをもったまま本丸の積水ハウス事件に切り込んだ。 10月に入ると、積水ハウス事件における主犯として、元ABCホームの小山操の逮捕状を東京地裁に請求した。もっとも、警視庁が本格捜査に乗り出すまでには、紆余曲折もあった。それは事件の計画・立案者が小山ではなく、内田や北田という大物地面師だったからでもある。 『“積水ハウス地面師事件”はうれしい誤算だった…当初の計画「融資詐欺」が取引総額70億円の「大規模地面師事件」に変貌したワケ』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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