企業は情報を隠したがる? 「若者雇用促進法」はザル法か就活の味方か?
22の大学にアンケート取材
同法は昨年9月に成立し、2017年卒の新卒採用から同法の対象となることが決まった。しかし、実際には学生たちが職場情報を得にくい状況は改善されていないようだ。 THE PAGEが6月に法政大学や近畿大学など22の大学にアンケート取材を行ったところ、回答を得られた13の大学のうち全ての大学が、企業からの職場情報の提供が増えておらず、変わらないと回答。同法の仕組みを使って、学生が企業に情報提供を求めたケースも1件もなかった。大学に寄せられた求人に情報が提供されるよう改めて働きかけている大学も1大学にとどまった。 アンケートでは「大学は求人をもらう側。企業に働きかけはしづらい立場にある。応募者からの求めに開示義務を課しても選考への影響を考えると聞きにくい」(帝京大学)「企業が虚偽の開示をしても罰則がないなど実効性について疑問」(同志社大学)などの回答があった。東京六大学の一つである大学の就職支援担当者は「法施行後も『聞くだけ野暮』の雰囲気は変わっていない」と打ち明ける。
「数値把握も公表できない」企業が4割
新卒の就職支援事業を手掛けるアイデム(東京都新宿区)が今年3月に、2017年度新卒採用の担当者1000人を対象に行った調査では、残業時間の実績や育児休業の取得者数、過去3年以内の新卒採用者の離職者数など4項目で「数値は把握しているが、公表できない」との回答が4割を超えた。 職場情報に関する数値は把握しているが公表できないとしている企業の従業員数は「100~299人」「300~999人」「1000~2999人」が多く、「99人以下」と「3000人以上」が比較的少なかった。会社の規模にかかわらず、公表したくないという意識が蔓延している状況が明らかになった。 調査を手がけた同社・人と仕事研究所の岸川宏所長は「学生を対象とした調査では、残業時間の実績や新卒採用者の離職者数が知りたい情報の上位に上がっており、学生と企業の意識にはズレが生じている。2017年卒の採用は、会社説明会から面接などの採用選考までの期間が短く、売り手市場のため、学生が企業を見極める間もなく内定を得てしまい、ミスマッチが起こりやすい状況になっている。新卒採用者が早期に離職しては元も子もないので、法の施行をきっかけに、企業側は、対面で説明する機会を作るなど工夫して、仕事の厳しい部分もしっかり伝えていくことが必要だ」と指摘している。 厚生労働省・若者雇用対策室によると、企業に対する罰則がなかったり、学生側が実名で情報を請求しなければならなかったり、企業が提供する情報を選択できる余地を残していたりするのは、経営側に配慮した結果だという。担当者は「情報をどんどん開示していこうという機運を高めるために法律ができた。罰則をつけたり、必ず出さなければならなかったりすると、企業側の負担が重すぎると判断した」と説明する。 一方で「企業の情報提供が増えない、ということであれば強制力を持たせることも検討しなければならない」とし、まずは同法が認知されるよう、リーフレットの配布やポスターの掲示などの広報策を進めていくとした。個人名を示しての情報請求に抵抗がある学生については「ハローワークが対応するので、相談してほしい」と話していた。
《メモ》若者雇用促進法の概要
・新卒者を募集する企業に対し、残業時間の実績など幅広い職場情報を提供するよう努力義務化 ・応募者や求人申し込みをしたハローワーク、職業紹介事業者(大学などを含む)から求めがあった場合は、企業に対し3類型からそれぞれ1つ以上の情報提供を義務化(別表) ・学生が情報提供を求める場合は、メールか書面で氏名・連絡先(住所またはメールアドレス)・所属学校名、学年、卒業年月・情報提供を希望する旨を明記して送る