「即レス」はやめた方がいい? 実はトラブルの原因になるビジネススキルとは
「相手の気持ち」を10秒考えるクセをつける
心理スキルの2番目は、相手の気持ち、状況を10秒考えるクセをつけること。1番目の「即レスをやめる」こととセットで実践してほしいスキルです。 これは、とくにオンラインでのやりとりにおいて効果的なスキルです。今、職場ではメールだけでなく、さまざまなビジネスチャットツールが盛んに使われています。チャットツールの登場によって即レスする習慣がさらに身についてしまい、1回読み返す、相手の状況を想像するということが少なくなった印象を受けます。 表面だけサラッと読んで返信してしまう人も多いため、送ったほうは「そんなことを聞いているんじゃないんだけどな」「こっちの質問に答えてないんだけど......」というズレを感じることがよくあると聞きます。これが実はトラブルのもとだったりするんです。 また、言った、言わない、というトラブルもそうです。表面上の言葉に振り回されてしまうので、そのまま返してしまうと、文字からはニュアンスが伝わりません。そこで相手の気持ちや状況を10秒だけ考えてほしいとお伝えしています。 返信を送る前にほんの少しだけ読み返して、どんなふうに、どんな状況でこれを送ってきてくれているのだろうかと、一瞬考える時間を取るだけでトラブルは半減します。 実はこれは対面でも電話でも同じです。たかが10秒、されど10秒。10秒の余白余裕をつくりましょう。 自分は仕事ができると思っている人ほど、レスポンスが早く、仕事のスピードも速いのは確かです。しかしながら、そのような人と仕事をしていると、正直、周囲がつらくなってしまうこともありますよね。 なぜなら、その余白がないから。その人のスピードについていくのがだんだん難しくなり、時に感覚のズレが起きて突然、周囲が辞めてしまう。そんな経験はないでしょうか? まず、このたった10秒を取ることによって、「なんだか急せかされているような気持ち」とか、「振り回されているような感覚」、言い方によっては、「圧が強いと感じ、傷ついてしまう」というそんな相手の思いにも気づくことができます。 10秒の余白によって、あなたのペース、そして相手のペースも少し想像しながら合わせていく。これがとても大切な人間関係のスキルになります。 もちろん、タスクをためないためにも即レスが必要なときはあります。一方で多少の時間をかけても考えなければならない返信もあります。この2つを見極めることが大切です。 スピード重視で行うだけでは、どこかで人間関係につまずきます。これは対面の場合でも同じことが言えます。この余白は相手にとっても自分にとっ ても、とても大切なものです。 言葉の裏には必ず「思い(想い)」があって、その人が表面で言葉にしたことの裏には本当に言いたいことが隠れています。その人が表面で言っていることと、本当に言いたいことにズレがないか、10秒だけ考えてみてほしいのです。 たとえば、オンライン上のやりとりなら文章でしかないので、今返信している内容は、相手が言葉にしている表面上の内容に対する返事だけではなく、本当に伝えたいことをちゃんと把握しているだろうかと考えてみるクセが大切なのです。 そうすると、たとえば何かしっくりこないなというときに、「もしかしたら言いたいことと違うかもしれない、この返事で大丈夫だろうか」とか、「私の捉え方は合っているだろうか」と考える10秒の余白のおかげで、「今おっしゃっていることは、こういう意味で間違いありませんか」というひと言を付け加えられるようになります。 このひと言が意味するところは、「私はちゃんとあなたの言いたいことをつかんでいますか」という確認なのですね。これができると人間関係のトラブルは格段に減ります。 今はスピード重視で、一般的には、よけいなひと言は言わないという美徳もありますが、ここでは違います。自分の今の状況を伝えたり、相手の状況や気持ちをくみとろうとする「よけいなひと言」をあえて加えるのです。 メッセージの最後に、「わかりにくかったら、お尋ねください」とひと言付け加えると、なんだか相手も言いやすくなったりします。また外で返信を急いでしなければならないときは、「今、出先にいるので意味が通じにくい返事になるかもしれませんが、とりあえず返信させていただきます。わかりにくかったら、もう一度お尋ねください」と入れてレスポンスをすることにより、誤解を生じるのを防ぐことができます。 また、対面やオンラインでの打ち合わせでも、ビジネスのみの話だと相手が今どんな状況かわからず把握できない場合がありますよね。そこで10秒だけ余白をつくることによって相手の状況を少し聞いてみる。これが人間関係のクッションになったりします。 即レスで完璧な返答をし、連絡だけは滞りなく送っていても、それだけで終わらせてしまうと、想像力が落ちている現代人は互いに言わないことをためすぎ、(相手のことがわからず)ストレスをためてしまうことがあるわけです。 私も対面で話すときには、相手から言葉が出るのを意識して待つようにしています。でも、たいていの人は沈黙が怖くて、何か話して無理に沈黙を埋めようとしてしまいます。そんなときの会話は表面的で、お互いにとても疲れてしまいます。 ここで相手の状況や話を聞こうと思える余裕があると、知らなかった近況報告を聞くことで状況がわかり、お互いの共通点が見つかって距離が少し縮んだりすることがあります。これはAIにはできないことですよね。 また、イラッときてしまうときも、10秒待ってみてください。 たとえば、嫌な感じのメールを受け取ってカチンときたり、「ん?」と違和感を持ったりすることもあるでしょう。「このメール、何が言いたい?」と、モヤモヤすることも。 でも、それに対して、こちらもモヤっとしたまま感じの悪い返信をしてしまう前に10秒だけ考えてみましょう。「この人は本当に嫌なことを私に言いたかったのか」、それとも「言い回しが下手なだけなのか」その言葉の裏には想像もしないものが隠れているかもしれないと、いったん考えてみるのです。 「忙しかったのかな」とか、「もしかしたら、とてもお困りなのかな」と10秒置いて考えるだけで、無駄に怒る必要もなくなり、その後は人間関係がトラブルになることもなく円滑に進んだりします。 これは自分のためでもあります。ちょっと相手の気持ちを想像してみる。この余白を持つだけで腹が立たなくなり、自分自身も気分よく過ごせるのです。
林健太郎(エグゼクティブ・コ-チ)