あえて今、「マニュアル車」という選択肢 “電動化時代”におけるその存在意義とは
AT車の進化が開く新たな道
オートマ(AT)車の自動運転技術は急速に発展しており、現在は米国自動車技術会の自動運転レベル3「条件付自動運転車(限定領域)」まで実用化が進んでいる。 【画像】ビックリ…! これが60年前の「蓮田SA」です(計12枚) 自動運転レベル3では、限定された条件下の自動運転システムによる運転が可能になる。具体的には、渋滞時の高速道路などの限定領域において、ドライバーがハンドルから手を離す「ハンズオフ」や、前方を注視していなくても問題ない「アイズオフ」の走行だ。 自動運転レベル3搭載車の第1号は、ホンダが2021年に発表した「レジェンド」である。AT車は自動変速機を備えているため、アクセル・ブレーキ操作を自動化しやすいという特性がある。一方で、マニュアル(MT)車はクラッチ操作やシフトチェンジなど、ドライバーの複雑な運転操作が必要とされるため、自動運転への対応が難しいとされている。 AT車の自動運転には、交通事故の削減、渋滞緩和、高齢者の移動支援など、さまざまなメリットが期待されている。ただし、実現には技術的・社会・法律的な課題が残されている。 センサー類や人工知能(AI)のさらなる進化、高精度3D地図の整備、交通ルールの見直し、事故時の責任の所在の明確化などが必要とされている。 自動車メーカー各社は、AT車の自動運転技術の研究開発を加速させており、より高度で安全な自動運転の実現を目指している。 一方で、MT車も運転の楽しさや操作の面白さを求める少数派ユーザーに支持されており、AT車とのすみ分けが進むと予想されている。AT車の自動運転化が進む中で、MT車の存在価値や役割についても注目が集まっている。
自動運転時代におけるMT車の役割
日本の自動車市場では、MT仕様の車種が大幅に減少しており、新車販売の中でMT新車販車の比率は2%を切っている。また、MT車はドライバー自身がクラッチ操作とシフトチェンジを行う必要があるため、運転には一定の技術と慣れが必要とされるため、敬遠されがちだ。 しかし、MT車ならではのダイレクトな操作感覚やエンジン特性を体感でき、アクセル・クラッチ・シフトレバーの操作をドライバーの意思で自在にコントロールできる楽しさがある。 MT車はドライバーがメインで操作する部分が多いため、運転支援や安全運転のサポートは技術的なハードルが高い。アクセルやクラッチ操作のタイミングやシフトチェンジのタイミングをアシストしたり、ドライバーの意図を読み取り運転操作に反映したりする技術の開発などが求められるが、MT車の操作感覚を損なわずに支援することは容易ではない。 しかし近年、自動車メーカーがMT車の魅力を引き出す新たな技術にも注力し始めている。スバルは2023年秋に「BRZ」改良モデルを発表した。MT車向けに開発した新バージョンの運転支援システム「アイサイト」を初めて搭載している。これにより、マニュアル車ならではの操作の楽しさを損なうことなく安全運転をアシストできるようになる。 また、スズキもMT車への予防安全機能の搭載を進めており、「スイフトスポーツ」のMT車に、デュアルセンサーブレーキサポートなどの予防安全機能を採用している。MT車でも衝突被害軽減ブレーキなどの先進技術が生きている。 MT車の必要性に注目している自動車メーカーは、MT車ならではの「運転する喜び」と、自動運転がもたらす「利便性」のふたつの魅力を兼ね備えた新しい車の形を追求しているのである。