NHK大河「光る君へ」 老いた兼家…後継争いがもたらす藤原家の運命は 第14回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の第14回「星落ちてなお」が7日に放送される。 【写真】定子(高畑光希)とじゃれ合う幼い一条天皇(柊木陽太) 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。 3月31日に放送された第13回「進むべき道」は、互いに思いを秘めながら、まひろ(吉高)と別れた道長(柄本佑)が左大臣家に婿入りした庚申待(こうしんまち)の夜から4年。道隆(井浦新)の娘・定子(高畑充希)が元服した一条天皇(柊木陽太)のもとに入内(じゅだい)し、道隆一家が内裏の一大勢力になろうとしているシーンから始まった。 「枕草子」を一度でも読んだことがある視聴者なら、なんとなく「さま」付けで呼びたくなる定子さまは、おおらかで教養もあり、つぼみがパッと開いたような可憐(かれん)さ。伊周(三浦翔平)も含めた一家団らんや、一条天皇とのほほえましいシーンは安らぎを与えてくれるキャラクターだけに、史実に則した今後の展開を考えると少し胸が苦しい。 関白・兼家(段田安則)は、老いなのか呪いの影響なのか、日に日にコミュニケーションがおぼつかなくなり、後継をめぐる争いが勃発。嫡男として美しいものだけを見させられてきた道隆、汚れ仕事の実行役として、影だけを見させられてきた道兼(玉置玲央)。本来は表裏一体の兄弟であるが、後継ぎの座をめぐり静かな炎が燃える。 道長のもう一人の妻となった明子(瀧内公美)は、父の敵である兼家へのあだ討ちとして呪詛(じゅそ)にいそしむ。子を授かっても笑わない女・明子が、兼家の扇子を手に入れ笑みをみせるシーンはめちゃくちゃホラー。「源氏物語」の葵の上と六条御息所のハイブリッドモデルである。 まひろは辻で、文字が読めずカモられる庶民の姿を目の当たりにし、読み書きを教えるボランティアを始める。このコラムの初回、かつて筆者が「頭の中だけは誰にも奪われない」と、ある人に言われ、今でもその教えを大事にしていることを記したが、まひろはそれを人のために成そうとする。文字という武器を携え、自分の世界を広げることは楽しい。楽しむ人の数を増やすことが、まひろにとっては庚申待の夜に言い切った「生まれてきた意味」のひとつだった。のちのベストセラーを生む背景が丁寧に描き込まれていく。 時同じくして、国司の横暴を訴える民からの陳情をノールックで却下する道隆に、道長は「民なくば我々の暮らしもありません」と抵抗する。この4年間、会うこともなかった2人の心の礎には「民を救う」という共通した志が息づく。 恍惚(こうこつ)の人になりつつある兼家は、突如正気を取り戻し、道長に「お前が守るべきでは民ではない。政とは家の存続である」と持論を説いた。令和の政界にもブッ刺さる皮肉なせりふ。それにしても”段田兼家”の存在感はとんでもない。筆者が選ぶ「光る君へ」序盤のMVPは間違いなく直秀(毎熊克哉)と兼家。退場の時が近づいているのが寂しい限りだ。 仕え先が決まらないまひろを案じた倫子(黒木華)は、夫が生涯ただひとり愛した女とは知らずにかつての友・まひろを招く。娘の彰子も初登場。倫子はまひろに、自らの夫が大事に文箱に入れている漢詩の真意を尋ねるが、まひろからしてみれば、本妻の前で自分の書いたラブレターを解説させられるって地獄すぎる。まひろは庚申待の夜に、愛する人も、心許せる姉のような友も両方失ってしまった。こちらの展開も、呪いに負けず劣らずのホラー。そして宿縁のように、まひろと道長は4年越しの再会を果たす。 第14回では、兼家がついに政から退くことを決意。後継を道隆に定めると告げたところ、道兼は激高し、兄弟の間には亀裂が生じる。跡を継いだ道隆は摂政となり、独裁が始まっていく。一方まひろは、村の娘・たね(竹澤咲子)に読み書きを教えていたが、厳しい現実に直面する―という内容が描かれていく。 星月夜の代替わりを機に、藤原家はそれぞれの運命に突き進む。ききょう(ファーストサマーウイカ)も久々に登場し、まひろサイドにも動きが。物語もいよいよ、日本史で習った平安の世に差し掛かりつつある。10代のころに公文式や学校の授業で得た知識、平安が舞台の少女マンガやティーン小説から授かった情報が、今こんなところで筆者を助けてくれている。大人になって「これ、進研ゼミでやったところだ…!」状態になれる日が来るとは、なんたる幸運か。読み書きを教えてもらうこともできなかった時代に思いをはせ、現代に生きていることを感謝した。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社