ドラフト候補目白押し 優勝候補の筆頭だった富士大はなぜ全国大会出場を逃したのか?
昨年度は安田監督が考えた厳しい練習メニューを選手全員でやり抜くなかで、「みんなで乗り越えた」という一体感が生まれた。だが、今年度は個々人で取り組むなかで、チームとしての結束が生まれにくかった。安田監督は、そう見ている。 【優勝した八戸学院大に意地の連勝】 顕著だったのは、選手のコンディション面だ。佐々木が故障で開幕に間に合わず、麦谷も右ヒザに違和感を抱えていた時期があった。エースの佐藤も状態が上がらないまま、開幕を迎えている。安田監督が続ける。 「ケガをしないように調整することができず、ピッチャーが軒並み調子を崩したのを見ると、練習に問題があったと言わざるを得ません」 麦谷は青森大戦では、シートノックから躍動感たっぷりのアクションで猛烈なバックホームを披露していた。体調について尋ねると、「ヒザは違和感があったくらいで、今は大丈夫です」と元気に答えた。 思うような結果が出なかった点について尋ねると、麦谷は自身の葛藤を明かした。 「キャプテンの山澤(太陽/4年・啓新)を中心にミーティングをやってきましたが、選手の気持ちの持ち方に問題があったのかなと感じます。油断していたわけじゃないんですけど、全国ベスト4になって『リーグ戦はいけるだろう』という思いが、多少はあったと思います。個人としては『結果を出そう』という思いが強くなりすぎて、いつも以上に力が入ってしまいました」 宗山塁(明治大)、渡部聖弥(大阪商業大)、佐々木泰(青山学院大)など、有力な大学生ドラフト候補の多くが、最終学年に入って苦しんでいる。そんななか、麦谷は「史礁(みしょう)はすごいですよね」と青山学院大の主砲を務める西川史礁を称えた。西川は春先に侍ジャパントップチームで大活躍しただけでなく、リーグ戦でも結果を残し続けている。麦谷はオープン戦で連絡先を交換し、刺激を受けているという。 「あらためて大学4年目に結果を残す難しさを感じました。でも、自分もやっていかないといけないですよね」 こう語った翌日、麦谷は今季第1号本塁打をレフトスタンドに放り込んでいる。
八戸学院大が8連勝を飾り、富士大との最終節を待たずしてリーグ優勝を決めた。それでも、安田監督は「残り試合を全部勝ちにいくだけ」と断言した。 「優勝してもしなくても、全力でやるだけ。180人もいる部員の代表として、モチベーションが下がるなんて絶対に許されません。スタンドで一生懸命に応援してくれる部員たちのためにも、全部勝ちにいきます」 この言葉どおり、翌週の最終節で富士大は八戸学院大に3対2、10対2(7回コールド)と連勝してシーズンを終えている。やはり、富士大は富士大だった。 屈辱の春を糧にするしかない。富士大はまたひと回り大きくなって秋のシーズンに帰ってくるはずだ。
菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro