「アベノミクスの源流を探る」(上)三本の矢と歴史上の経済政策
ニューディールが有名な公共事業推進
第二の矢は財政出動による公共事業の推進である。世界恐慌後にアメリカのルーズベルト大統領が行ったニューディール政策が有名だが、ケインズ経済学の理論を取り入れ、政府が税金を投入して道路やダムを作り、それが需要を喚起する事で不況から脱出する方法である。この政策は第二次世界大戦後の資本主義国に大きな影響を与え、日本では自民党の基本政策となった。ところが戦後の復興期には有効だったが、やがて税金にぶら下がって生きる土建業界が過剰になると、その業界のために不要な鉄道や空港、ダムなどが作られるようになった。それが赤字の国鉄を生み、日本航空の破たんにつながり、日本を土建国家といういびつな形にする。 民主党への政権交代はそのいびつな国家からの脱皮だった。民主党は公共事業に代わる「人への投資」を政策の柱としたが、日本が東日本大震災に見舞われた事もあってアベノミクスの第二の矢として公共事業に光が当たる事になった。しかし土建国家になる事が日本の未来の姿ではない。これは一時的な景気浮揚策に過ぎない。
新自由主義の「トリクルダウン」理論
第三の矢は民間企業の投資を喚起する成長戦略である。ここにアベノミクスの本来の目的がある。そしてその考えは、富める者を富ませれば貧しい者にも富はしたたり落ちるという「トリクルダウン」の理論に基づいている。これはアメリカのレーガン大統領の経済政策レーガノミクスで知られるようになった新自由主義の政策である。日本では小泉総理がそれを真似て小泉構造改革を行った。しかしそれは都市と地方、大企業と中小企業、また国民の中に「勝ち組」と「負け組」を生んで格差を拡大させた。それをアベノミクスは再びやろうとしているのである。そこで新自由主義を採用した国家がどのような顛末を迎えたか、その源流を世界の中から探ってみる。 (ジャーナリスト・田中良紹)