刺激は少ないけど所有感を満たすバイクだった 1992年ヤマハ「SRV250」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.3】
それはカタログの紙質やページ数など作りにも表れていて見応え、読み応えがあります。イマドキのバイクカタログはメカニズムなど作り手のこだわりが前面に出ることはありませんが、ハイテクなどひとつもないSRVの作り込みに対するエンジニアの思いをコピーライターがしっかりと代弁しています。歴代SR系のカタログもそうでしたが、SRV250も負けていませんでした。 前後のフェンダーはタンクやフレームと同色ですが、ライダー目線にはクロムメッキのヘッドライトケースや兄貴分のSRX400/600以上に質感のあるツインメーター。さらにはその文字盤の色合いなども今のデジタル表示にはない、まるで本を読むような感覚の文字情報がそこに現れます。凹凸面をできるだけ均一にして十分に塗料がのるよう入念な電着+静電塗装したタンクなどと相まって、250でここまでやるのかと感心しました。
ツートーンカラーのSを追加、さらにマイナーチェンジでシート高アップ
ヤマハはその後にSRV250Sというモデルを追加。塗り分けツートーンタンク、フレームのシルバー塗装、サブタンク別体式リヤショック、コンチネンタルハンドル、メーターバイザー、クロムメッキ板金チェーンケース、専用大型立体エンブレムが標準車と異なっていました。 SRVへの思いをますます強めた作り込みとしては、1993年モデルよりシート厚を10ミリアップさせたこと。 実は、走りの世界観としてヤマハは「面で走る」ことをSRVで強調していました。レーサーレプリカ全盛時代を経て、もはや常識は前後ホイールが17インチだったのに対して、あえて前後輪とも18インチを採用して舵角はあまり入れず、車体全体の傾斜でカーブをおおらかに回ろうという考えを最優先したのです。 クイックに曲がるバイクではなく、エンジンのVツイン鼓動と連動する新しいテイストの提案でした。通常はシートを低くする方が足付き性が良くなって売りやすい。そんな常套手段をあえて採用せず、SRVの走りがわかってくれる人のために何をすべきか、という視点で作り上げたのでした。 ──1993年に追加されたSRV250S。 「速さ」もいいけど、そもそも250ccもあれば速さは十分にあるじゃないか。だったら今までにない250って創れないだろうか? という思いがそもそもの発想でした。 鉄という素材。内燃機関という機械。そして作り手の美意識。 派手に売れたバイクではないけれど、1980年代のレプリカ全盛を経たからこそ生まれたテイスト満載の250ccロードバイクだったのです。 ●文/カタログ画像提供:柏秀樹 ※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。