知られざる良作揃い! NetflixやPrime Videoで今夜すぐ見られるおすすめ配信映画4選
『アメリカン・フィクション』、『Saltburn』、『マエストロ』、『ザ・キラー』など、アカデミー賞にノミネートされる配信オンリーの映画が増えている。ゴールデンウィークは家で映画鑑賞してカルチャーを摂取しよう。 【写真を見る】ゴールデンウィークにおすすめの配信ドラマをチェック!
『アメリカン・フィクション』、『Saltburn』、『ザ・キラー』、『マエストロ』、の見どころを解説
■『アメリカン・フィクション』 ――皮肉たっぷりの社会派コメディ作品 モンクは父親と兄弟は皆医者、というエリート一家に育ち、大学で教鞭をとる傍ら純文学を執筆している黒人の作家。「黒人らしさが足りない」と新作の出版を断られたことをきっかけに、半ばやけになり”殺人を犯して逃亡中のギャング”という冗談のようなステレオタイプの黒人になりきり、偽名を使って嘘の自叙伝を執筆する。するとそれがまたたく間にベストセラーになり、さらには映画化の話まで持ち上がってしまう。慌てるモンクだが、引くに引けず……。 ■アカデミー賞で脚色賞を受賞した巧妙な脚本 本作は、2024年に行われた第96回アカデミー賞で作品賞など5部門にノミネートされ、脚色賞を受賞したが、日本では劇場公開されず配信でのみのお披露目となり、大規模なプロモーションも行われなかったので、見逃している方も多いのではないだろうか。監督を務めたのは、ドラマ版『ウォッチメン』など人気テレビドラマの脚本を手掛けてきたコード・ジェファーソン。原作は、パーシバル・エベレットの小説『Erasure』で、本作はそれを元に脚色した社会派コメディだ。原作に比べ、家族の絆に重点を置いたことで、ハートウォーミングかつ主人公の心境の変化もよりスムーズな展開に。モンク役のジェフリー・ライトはこれまで、『007』シリーズに度々登場するCIAのアメリカ人、フェリックス・ライターなど脇役を演じることが多かった。見たことあるけど、誰だっけ?という印象の俳優で、本作では久々の主演を務めた。 ■迎合することは悪いこと? 本作では、”黒人のトラウマをネタにして罪悪感を感じさせる”ことが白人を満足させると描いているが、俯瞰してみると、白人に対してもかなりの偏見があることに気づく。世の中そこまで無知な白人ばかりではないと願いたいが、「今こそ黒人の声に耳を傾けるべき!」と声高に叫ぶ白人女性が、そばにいる黒人の意見を全く聞かないシーンには頭を抱えてしまう。 自分では駄作だと思っているものが、世間でもてはやされることで、真の評価や価値は一体どこにあるのだろうか、と考えさせられる。大衆にウケるものを創ることと、自分のスタイルを貫くことのジレンマは、何かを創造することを生業にしている人であれば必ずぶつかる壁だ。どこかで折り合いを付け、自分なりの正解を見つけていくしかないわけだが、おそらくモンクもひとつの解答を見つけたのではないだろうか。本作ではステレオタイプな黒人と白人のことを描いているが、どんな境遇の人でも自分ごとに置き換えて考えることができる。無自覚の偏見や差別が浮き彫りになるので、見ていて居心地が悪くなるが、軽快なテンポでコメディとして成立させた監督と俳優陣の力は素晴らしい。もし、面白いだけのコメディ作品と感じたら、これまでの考え方を変えたほうが良いかもしれない。 『アメリカン・フィクション』 Prime Videoで独占配信中 ■『Saltburn』 ――毒々さ全開の最狂ゴシックスリラー 名門大学であるオックスフォードに入学したオリヴァーは、上流階級出身の学生たちばかりの大学生活に馴染めないでいた。ある時、上流階級グループのリーダー的存在のフェリックスに自転車を貸すことで、彼と仲良くなる。孤独なオリヴァーを不憫に思ったフェリックスは、ソルトバーンにある豪華絢爛な屋敷にオリヴァーを招待する。ひと夏をフェリックスの家族とともに過ごすことになるのだが……。 ■マーゴット・ロビーもプロデューサーに名を連ねる 本作は、キャリー・マリガン主演の『プロミシング・ヤング・ウーマン』で鮮烈な長編映画デビューを果たしたエメラルド・フェネルの長編映画2作目。前作もぶっ飛んでいたが、またとんでもない作品を世に生み出した。主人公のオリヴァーは『ダンケルク』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたバリー・コーガン(キオガン)、フェリックスはドラマシリーズ『ユーフォリア』でその名を轟かせ、『プリシラ』ではエルヴィス役を演じたジェイコブ・エロルディが演じている。フェリックスの母親は『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクが演じたりと、名俳優たちが勢揃い。さらに『バービー』をはじめ、社会派エンタメ作品を数多く手掛けるマーゴット・ロビーがプロデューサーに名を連ねることからも、本作への期待が高まる。 ■あっと驚くどんでん返し! でも本当は……? 見どころはなんといっても、オリヴァーの気持ち悪さ。長身でスタイル抜群、さわやか青年であるフェリックスと正反対の薄気味悪さをまとい、劇中で圧倒的な存在感を放つ。SNSでバイラルになったある浴槽シーンがあるのだが、控えめに言って令和最狂の不快シーンだと思う。 自分の居場所が見つからず、なんとかフェリックスに気に入られようと見栄を張るオリヴァーや、苦労したことがないゆえ、誰にでも別け隔てなく優しいフェリックスから、労働者階級と特権階級の間にある格差を否応なく見せつけられる。イギリス社会だけでなく世界中で持つものと持たざるものといった格差は広がり続けており、本作はそんな世の中を皮肉たっぷりに浮き彫りにしていく。物語終盤、ストーリーは思わぬ方向へ進み出し、驚きの結末を迎えるが、果たしてオリヴァーの言葉をそのまま信じて良いのだろうか。容赦ないストーリー展開はフェネル監督の前作『プロミシング・ヤングウーマン』に通じるものがある。狂気と色気が混在する独特の世界をぜひ”味わって”欲しい。 『Saltburn』 Prime Videoで独占配信中 ■『ザ・キラー』 ――病的なまでに完璧を貫く暗殺者とフィンチャーの仕事論 『セブン』、『ファイトクラブ)、『ゴーン・ガール』など数々の名作映画を手掛ける監督デヴィッド・フィンチャー最新作。ほんの僅かな期間のみ劇場公開され、現在はNetflixで配信されている。 空室になった元WeWorkに忍び込み、道を挟んだ向かい側にあるペントハウスを見つめ続ける暗殺者。腕のアップルウォッチで常に心拍数を計測し、冷静で慌てず「ザ・スミス」をイヤホンで聞くというルーティーンを崩さない。ここまでは完璧なはずだったが、些細なことでミスをし、ターゲットを殺しそこねてしまう。暗殺計画が失敗したことで、雇用主から追われ、世界中を股にかけた追跡劇が始まる。 ■役名”暗殺者”のモノローグ 主演の暗殺者を演じたのは『それでも夜は明ける』のマイケル・ファスベンダー。ちなみにこの暗殺者に役名はなく、エンドロールにもThe Killerとのみ記されている。完璧主義者である暗殺者が呪文のように唱えるのが、「計画通りにやれ、予測しろ、即興はよせ、誰も信じるな」、「感情移入せず、誰も信用するな。やるべきことを確実にこなせ」というセリフ。しかし暗殺に失敗し自宅に戻ると、彼女が暴行されているのを発見。暗殺者は襲った犯人を見つけようと無計画に家を飛び出す。タクシー運転手を殺害し、その後も犯人を追って次々と殺人を犯す。失敗に固執し過ぎでは?と思うが、これが彼なりのプロフェッショナリズムなのだろう。 また、冒頭のWeWorkだったり、マクドナルドやAmazonなどおそらくプロダクトプレイスメントではなく、ストーリーに必然の要素としてそれらが自然に出てくるのが非常にリアルで、ストーリーにフィンチャーらしいエッジを効かせている。 ■シャープな映像と実在のプロダクト この作品のテーマはおそらく仕事論だ。仕事に執着しすぎて完璧主義を貫くあまり、男は孤独になっていく。殺人者が唱える「計画通りにやれ、、即興はよせ」、「誰も信用するな。やるべきことを確実にこなせ」はおそらく、監督自身に投げかけた言葉だろう。完璧主義のフィンチャーは予定した通りに完璧に映画を撮りたいと思っているのに、現実はそうはいかない。猟奇的な域まで達してしまった完璧主義を自らあざ笑うかのようなシニカルなエンディング。結局何が言いたかったの?となるかもしれないがこの映画はそれで良いのだと思う。深く考えず、完璧主義の暗殺者の仕事っぷりを楽しんで欲しい。 Netflix映画『ザ・キラー』独占配信中 ■『マエストロ:その音楽と愛と』 ――ブラッドリー・クーパーの手腕に脱帽、バーンスタイン夫婦の愛の軌跡を描く ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の指揮者として活躍したレナード・バーンスタイン。Netflixで配信中の『マエストロ:その音楽と愛と』は、彼の成功への軌跡をたどるとともに、妻フェリシアとの愛の物語だ。 1934年、25歳のレナードは、ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団で副指揮者を務めていた。ある時出演予定の指揮者が病気になり、不意に指揮者デビューする。ぶっつけ本番だったにもかかわらず、スタンディングオベーションが巻き起こる素晴らしいステージを披露し、華々しいデビューを飾る。そんな中、妹の家で行われたパーティーで女優を目指すピアニストのフェリシアと出会い、ふたりは恋に落ちる。フェリシアとともに人生を歩むレナードだったが、恋の噂は絶えず……。 ■ブラッドリー・クーパーの底力を知る レナード・バーンスタインを演じるのはブラッドリー・クーパーで、本作は『アリースター誕生』に続き2作目の監督作品でもある。妻のフェリシアを演じたのは『プロミシング・ヤングウーマン』、『Saltburn』のキャリー・マリガン。ふたりは特殊メイクを用い、20代から老年期までのレナードとフェリシアを見事に演じた。第96回アカデミー賞では、作品賞、主演男優賞、主演女優賞など計7部門にノミネート。また全編にわたり、レナード・バーンスタイン本人の楽曲が使用されている。 ■偉人の回顧録ではなく、夫婦の愛の物語 本作は偉人レナード・バーンスタインの伝記映画というより、レナードとフェリシアの家族映画だ。レナードは実はバイセクシャルで、フェリシアと結婚する前、男性の恋人がいた。結婚を機に関係は終わるが、しばらくするとまた恋人ができる。愛想をつかしたフェリシアは離婚こそしないものの、別の道を歩き始める。しかし離婚はしなかった。心のどこかでレナードを愛していたのだ。レナードも同じで、恋人がいてもフェリシアは特別な存在だった。愛のかたちはひとつではなく、それぞれの家族や夫婦で様々な愛があることを教えてくれる。 もちろんストーリーを彩るバーンスタインの音楽も欠かせない。特にストーリーの後半、レナードがイギリスで「マーラーの交響曲第2番ハ短調」を指揮するシーンがあるのだが、ここが圧巻。非常に見応えのあるシーンで、本当にコンサートを観たかのように感涙してしまう。そして演奏が終わったあとのフェリシアとのシークエンスも涙なしでは見られないだろう。バーンスタインの複雑で繊細な心境、そして指揮者という特殊な職業を演じる技術面での努力、さらに監督と脚本を務め、バーンスタインの人生を彩り豊かに描いたブラッドリー・クーパーの才能に圧倒される。自宅でゆったりとくつろぎながら音楽に耳を傾け鑑賞するのに最適な作品だ。 Netflix映画『マエストロ:その音楽と愛と』独占配信中
編集と文・遠藤加奈(GQ)