“歩く理論派左腕”中日・小笠原慎之介が電車を降りて、もう一回乗った理由
◆ ファンから『え、また電車乗るの?』 小笠原慎之介は6月23日の阪神戦(倉敷)で、7イニングを無失点に抑えて1カ月ぶりの白星を手にした。 その前日、名古屋で練習した左腕は岡山の選手宿舎に到着、その後にもう一度、電車に揺られていたのだとか…。 岡山に着いた22日夕方、中国地方は梅雨入りした。時間をどう使うか考えた背番号11。駅へ向かい、もう1度、電車に乗った。 「湿度、高いですよね。歩いたら汗が吹き出してきました。あした(試合当日)も、こんな感じだなと把握しました」 到着した岡山駅では出待ちするファンの間をすり抜けていったんは宿舎へ入った。私服に着替えて同じ駅へ向かう。 「ファンから『え、また電車乗るの?』って見られた感じがしました」 降りたのは球場のある倉敷市内。登板時間帯に歩き、湿度を感じとる。天気予報を見て、湿度の高さを確認した。 行く意味は何か。「ゲーム当日の食事をどうするか考えるためです。食べる時間を、いつもより1時間早めました。自分で投げる環境は変えられない。そこは気にしてもしょうがないじゃないですか。自分が環境に合わせていくしかない」。 普段より多湿な環境は体のメカニズムを狂わせる。消化時間と発汗量、心拍数の変化を想像して朝食から時間を早めたとか。 試合は阪神・才木浩人に投げ勝った。8勝左腕に土をつけて、3勝を手にした。「とにかく、目の前の打者を抑えることだけ考えて投げました」。右腕は2カ月半ぶり黒星だった。 ◆ 「やっぱり自分の体を知るのって、大事です」 なぜ、消化時間まで気を配るのか。昨オフ、別の競技をするアスリートから食事メニューのアドバイスを受けたことがきっかけだった。肉や魚、野菜、フルーツ、それぞれ口にしてからエネルギーに変換されるまでの時間は異なる。 「試合開始からどうエネルギーとして使っていけるのか、逆算して食べるようになりました」と語る。試合前日は倉敷市内で「何でもあるお店に入りました。すごくおいしかったです」。韓国料理店「しっとら」で枝豆から口に入れ、チジミ、コメなどバランスを考えて食べた。店名の「しっとら」は、「知っている」の岡山弁「知っとる」と韓国語の食通「しっとら」の意味があるのだとか。 「やっぱり自分の体を知るのって、大事です。練習して、いっぱい練習しても、試合でエネルギーを出す状況にないと練習の意味はなくなっちゃいます。パフォーマンスをいかに出すか、です」 左腕が次に興味を持ってきているのは解剖学。「体のつながり、どこをどう動かしたら、別の部分にどう影響するのか。分かれば、ケガのリスクを減らせますから」と語る。 今回の阪神戦では豊田との対戦はなかった。夏の甲子園を制した東海大相模のチームメート。エースと4番だった。プロ9年目。「まだ豊田とは対戦したことはありません。打席に入るところを見たら、何を感じるのかな」。小笠原は成長し続けてきた。縦じまのユニホームを着るかつての仲間もきっとそう。左腕はまた、調整に入った。 文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)
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