みなみかわが「俺、親に捨てられたわ」と笑ったY君を“忘れられない”理由<映画『あんのこと』レビュー>
お笑い界イチの映画狂・みなみかわが、注目の新作映画をひと足先に熱血レビューする本連載。 【画像】過酷な人生を送り売春や麻薬の常習犯となった少女・杏 第4回では、日本映画『あんのこと』を取り上げる。メガホンを取った入江悠監督が、2020年6月に新聞で掲載されたある記事に衝撃を受けたことで着想を得たという本作。主人公・あんの人生を通じて“生きる”ということに深く切り込んだ人間ドラマから、みなみかわは“ある友人”の存在を想起する。
Y君について
忘れられない友人がいる。 小学校のときにY君というクラスメイトがいた。ちょっとヤンチャだけどどこか憎めない笑顔の男の子でいつも素足だった。 Y君のお母さんを数回見たことがある。とても派手な服装でソバージュのパーマを当てていた記憶がある。お父さんは見たことがない。母親参観や運動会で、Y君は基本的にひとりだった。集合写真でみんながお母さんと一緒に撮ってる写真も、Y君がひとりで気まずそうに写っていた。当時は「ああY君のお母さんは仕事で忙しいんだなぁ」と呑気に思っていた。 そんなY君は私立中学に進学した。私の地域では私立中学に行く人間など数えるくらいしかおらず、そんなに成績がよかったわけではないY君が試験に通ったのはみんなの謎だった。 しばらくして中学2年になったとき。突然Y君が私の通ってる公立中学に転校してきた。転校してきたY君はパッキパキのヤンキーになっていた。 Y君の黄色に近い金髪と鋭くなった眉毛、そしてあのあどけなさが消えた暗い目を見て、私立中学は退学になったんだろうなと察しがついた。当時、私が通っていた中学にもヤンキーが多かったがY君はヤンキー度が濃かった。なんと言っていいか、みんな小学校から知ってるからヤンキーになる過程を見てるわけで、カッコつけてグレてる奴もいたし、モテたくてグレてる奴、先輩に憧れてヤンキーになる奴たくさんいた。 ただY君は家庭に問題があったんだと思う。必然的にグレていた。芯からグレていた。わけもわからずグレていた。わかりやすく言うとタバコやバイクは笑えてもシンナーは笑えないみたいな話である。これ以上はたとえようがない。 ヤンキーの怖さというより、底知れぬ不幸さがあった。私はY君のその部分がなんだか怖く関わらないようにしていた。 そして高校に進学し地元のみんなとは少し疎遠になるが、風の噂でY君は見事にそのまま鑑別所か少年院に行ったことを聞いた。当然私には何もすることなどできないし、私だって自分の人生で精一杯だった。 さらに時が経った。大人になって久しぶりに地元の友達と飲んでいると、あるエピソードを教えてくれた。 地元友「俺な、18歳で免許取ってたやん? で、どこから聞いたのかYから連絡あってさ、『出所したから迎えに来てくれへん?』って」 私「嘘? 行ったん?」 地元友「暇やったし行ってん。でさ、Yを車に乗っけてYの家に行ってん。ほんならな、家の中なんもなかってん。母親どっか行ってんて。」 私「……嘘?」 地元友「じゃあYがな、軽い感じで『俺、親に捨てられたわ』って言ってきてさ、俺に笑いかけんのよ。俺何も返されへんかったわ。」 とても悲しかった。Yはかなり悪事を重ねたんだろう。でも私の脳裏にはお互い半ズボンでふざけ合う小学生Y君の屈託ない笑顔があった。