甲府の新外国人、身長が8センチ縮んだ?!その真相とは?
ユーチューブを介してプレー映像を確認するたびに、ヴァンフォーレ甲府のゼネラルマネージャー(GM)を兼任する佐久間悟監督はひとつの疑問を抱かずにはいられなかった。 「本当に188cmあるのかな」 周囲の選手などと照らし合わせてみると、新外国人として獲得することを予定していたナイジェリア出身のFWデリッキ・チュカ・オグブの身長が、どうしても伝えられていた188cmには見えない。 果たして、クラブの公式サイトを通じて、チュカの登録名で加入内定が発表されたのは3月17日。この段階では188cm、82kgと発表されていたサイズは来日とメディカルチェックを経て、正式契約が結ばれた同23日には180cm、81kgに訂正された。 ちょうどタレントのショーン・マクアードル川上氏の経歴詐称が、世間を大きく騒がせていた時期。体重はともかくとして、チュカの身長における8cmのサバ読み、ちょっと過激に表現すれば“身長詐称”は図らずもファンやメディアの注目を集めた。舞台裏では何が起こっていたのか。
チュカは20歳のときに、カタールのウム・サラルSCでプロデビュー。その後にベルギーとルーマニアのクラブを移り、2014年から中国スーパーリーグの遼寧宏運足球倶楽部でプレーした。 2シーズンにおける成績は42試合に出場して16ゴール。もっとも、新外国人選手を大量に獲得する、いわゆる“爆買い”の煽りを受けて契約が解除され、昨年末からフリーの状態だった。 一方のヴァンフォーレはFWクリスティアーノ、FWニウソン、DFジウトンのブラジル人トリオに、アジア枠でMFビリー・セレスキーを登録。外国人4人体制でシーズン開幕に臨んだが、特に来日1年目となるニウソンは期待されたスピードに欠けていた。 ヴァンフォーレの伝統スタイルは堅守速攻。まさに命綱となるスピードを外国人選手で補うために、シーズンを始動させて間もないころから水面下で調査に奔走し、イギリス人の代理人から紹介されたのがチュカだった。GMとしてチームの編成も行う佐久間監督が、苦笑いしながら振り返る。 「中国におけるチュカの情報、クラブ(遼寧)や中国サッカー協会への登録などを見ると、すべて身長は188cmとなっていたんですね。加えて、今回は僕たちが知っている代理人ではなかったんですけど、その彼も『身長は188cmある』と伝えてきたので、それを基本的には…。実は184cmのニウソンも当初の触れ込みよりもちょっと小さかったし、外国人選手は1、2cmほど身長をプラスしているケースが多いので、今回もどうなのかなという状況だったんですけど…。確かに小さかったですが、ちょっと仕方がないかなと」 あくまでも推測の域を出ないが、チュカを遼寧に売り込む際に、イギリス人の代理人は交渉を優位に運ばせるために身長を“サバ読んだ”可能性が高い。受け入れる中国及び遼寧側の対応もずさんで、満足なメディカルチェックを経ることなく身長を188cmで登録したのだろう。 実際、アジアや南米などでは、日本ほどプロフィールに対して厳格さを求めない国が多い。例えばチュカだけでなくニウソンの血液型も、現時点では「不明」となっている。 ヴァンフォーレ側も今年1月に東海林秀明氏が退任した以降は強化部長が不在で、佐久間監督がGMだけでなく強化部長の職務も兼ねていた。本来の流れとしては代理人から推薦を受けた上で、然るべきポストの人間が直接チェックした上で正式契約となる。 しかし、シーズンの開幕を直前に控えた指揮官がチームを留守にするわけにはいかず、チュカ自身も中国スーパーリーグにおける新天地探しをあきらめ、2月下旬には母国ナイジェリアへと戻っていた。 こうした要素が絡み合った結果として、チュカのプレーに対するチェックはユーチューブなどの映像が中心となった。佐久間監督が抱いた懸念が図らずも的中した形となるが、8cmもの身長訂正がいまでは笑い話と化しつつあるのは、ヴァンフォーレがチュカに求めていたのが「高さ」ではなく「速さ」となるからだ。