「キリエのうた」― 唯一無二の歌声が響く、岩井俊二の集大成
岩井作品にたびたび登場する美しい空は、〈芝居にまとわりついている背景でしかない〉というが、そこに流れる音楽やカメラワーク、ダンスを踊っているかのような登場人物たちの動きや仕草によって、忘れられない光景として観客の脳裏に焼き付く。本作における、海辺のピンク色の空や、冒頭と最後に織り込まれた、〈クランクインの日に撮った〉雪原もそれにあたる。 以前、松村北斗に取材した際、「すずめの戸締まり」(22)をはじめ、テレビドラマ『ノッキンオン・ロックドドア』など扉にちなんだ役が続いている気がするが……と本人に水を向けたところ、「主に〝扉〞回りの俳優をやらせていただいております!」との言質を得たのだが、本作での夏彦の登場シーンでも、その本領は発揮されている。 文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2024年6月号より転載)
キネマ旬報社