暗黒時代知る田代富雄打撃コーチがナインに伝えたこと「強い気持ち」「お客さんへの感謝」【DeNA日本一手記】
ハマの名伯楽も喜びを爆発させた。DeNAが3日の日本シリーズ第6戦(横浜)でソフトバンクを11―2で下し、同シリーズ通算成績を4勝2敗として悲願の日本一を達成。1998年以来26年ぶり、3度目の頂点に立った。リーグ3位からポストシーズンで全く別のチームへと変ぼうを遂げ、ついに下克上完遂――。その基盤となった「令和のマシンガン打線」を強力サポートした田代富雄打撃コーチ(70)が、チーム日本一の独占手記を寄せた。 【写真】南場智子オーナーと握手しながら、耳打ちする田代コーチ 【田代富雄打撃コーチ・独占手記】日本一、うれしいよ! ものすごくうれしい! 私の現役時代(1973~91年)の大洋は弱くてねえ、優勝争いすらしたことがなかったから。 去年は一軍とファームの巡回打撃コーチだったが、今年は三浦大輔監督の意向により一軍に固定された。メインのコーチは石井琢朗、鈴木尚典がいるから、私の主な役割は試合前の練習で選手を指導する後方支援です。 一番の大仕事はオースティンを100試合以上出場させることだった。あんな小さなバックスイングで遠くに飛ばせるんだから、技術的には何も言うことはない。来日1年目の宜野湾キャンプで初めて見た時からすごいなあと思っていました。 しかし、昨年までの4年間は故障がちで1シーズンフルに働いたことがない。彼は一生懸命やり過ぎてケガをしてしまうので、ブレーキをかける言い方が難しかったな。「ちょっと手を抜けよ」とは言えませんから。 面白かったのは、オースティンが私の現役時代のユニホームを着て球場に来たこと。ネットで見つけたんだそうで、それを着て横浜の街を歩いたんだって言うから「石投げられなかったか?」って言ってやったよ。 三浦監督の要望があれば、試合中もスコアラーとしてベンチ入りした。「よし、ナイスバッティング!」とか、私の声は時にベンチ裏にまで聞こえたらしい。ついつい夢中になっちゃうから。 選手に助言する時は、もっといい内容の打撃ができるようにと、私なりに考えています。ここというタイミングで効果的な指導をするには、常に選手の状態に目を配っておく必要がある。また、選手のタイプによって、こちらの言葉の受け止め方も随分違いますから。 この世界で生き残るのに一番大事なのは気持ちです。俺は野球でメシを食っていくんだっていう強い気持ち。それを教え込むのが私の仕事だ。 今の選手は幸せだよ。毎年のように優勝争いをして、今年は日本一にもなった。私の現役時代はほとんどBクラスでスタンドもガラガラだった。 前回日本一となった1998年、私は二軍打撃コーチでした。優勝祝賀会で、当時の中部慶次郎オーナーにビールのお酌をしたら「田代には悪いことをしたな。お前の時代はチームを強くするのにお金を使えなかったから」と言われました。 そういう思い出があるから、今の選手に言ったことがあります。「俺はお前たちがうらやましい。いつも大勢のお客さんの前で試合ができておまえたちは幸せなんだぞ」と。 いつまでユニホームを着るかについては、私のほうから毎年球団に伝えてあります。戦力ではないと判断されたら、そう言ってくださいと。それまでは、この年齢(70歳)で勝負のプレッシャーを感じながら生きていられることに感謝してやっていきます。 (構成・赤坂英一)
赤坂英一