「自給自足経済」の島国サモアで考えた、マーケティングの限界と本質
2024年9月、仕事でサモア独立国に滞在した。日本と比べて物も娯楽も少なく、当初は戸惑うことも多かった。マーケティングの限界を感じる一方で、人間性と持続可能性を大切にするサモアの人々の姿勢に感銘を受けた。マーケティング本来の役割とは何か、現地での体験をもとに考察したい。 ◾️驚きの交通事情と物価 南太平洋ポリネシアに位置するサモアは、外務省のウェブサイトによると、国土面積が2830平方キロメートル(東京都の1.3倍程度)で、人口は約22万人。ポリネシア系であるサモア人が90%を占め、ほか欧州系混血、メラネシア系、中国系などの民族が居住する。 今回、筆者は初めてのサモア滞在だったが、当初は戸惑うことが多かった。まずネット環境が厳しい。事前の調べではeSIMが使えるとのことだったが、現地ではどういうわけか全く繋がらなかった。結局、空港でボーダフォンのSIMカードを購入。速くて安いのは良いものの、テザリングができない。滞在したホテルのWi-Fiはメールチェックすら困難な速度で、課金して「ハイスピードプラン」を使ったが、それでも仕事にならない。結局パソコン作業は諦めた。 交通事情にも驚かされた。まず、信号機が全国に数えるほどしかない。一般車やタクシーは、郊外の道でも時速30キロしか出さない超安全運転。移動に思ったより時間がかかる。 物価は、現地の経済感覚からすると高水準だ。水1リットルが100円程度、コーラ600ミリリットルが250円ほどする。時期にもよるが、筆者が滞在したホテルは1泊2万円超。公共交通が発達していないサモアで活躍するタクシーは、空港から市内まで40分程度の乗車で4000円を超える。ただし、サモアの一般の人たちがホテルやタクシーを利用する機会は少ない。 ◾️自給自足経済で本来の伝統が残るサモア 国際機関「太平洋諸島センター」のウェブサイトでは、サモアをこのように説明している。 「素朴で伝統的なポリネシアの慣習を守って生活している代表的な国」 「多くの南太平洋の国が(中略)独自の伝統を維持することが困難になっているが、サモアは、自給自足経済への依存度が高く、本来の伝統を最も色濃く残している」 海外からの送金や観光業の発達もあり、サモアにも貨幣経済が浸透しつつある。しかしながら、首都・アピアを除く国民の多くは今も農業や漁業に従事しており、NGO関係者や地元住民は筆者の取材に「自給自足で生活している人も多い」と説明する。サモアの人々はおおらかで、人懐っこくて、幸せそうだ。果たして貨幣経済が幸せに直結するのかどうか、深く考えさせられる。