個室で映画やネットも楽しめる? ヨーロッパの刑務所事情とは?
受刑者の社会復帰をITがサポートするという見方
受刑者の人権保護と刑務所の環境改善はヨーロッパ各国で議論されている問題ですが、1950年に調印された「欧州人権条約」の存在も少なからず影響しています。欧州人権条約では拷問や非人道的な刑罰の禁止、奴隷や強制労働の禁止、刑事被告人の権利やプライバシーの保護などが記されており、現在は欧州評議会に加盟する47か国全てが批准しています。 このような背景が存在するため、日本の感覚ではただただ驚いてしまうような決定が下されることもあります。 2011年にノルウェーで無差別銃撃などの連続テロを起こし、単独で77人を殺害したアンネシュ・ブレイヴィーク受刑者は、警備の厳重な刑務所に収容され、政府の判断で他の受刑者とは隔離された状態でいましたが、ブレイヴィーク受刑者は人権侵害として国を提訴。先月26日にオスロの地方裁判所は、「自由権を保障する欧州人権条約のルールに反する」として、ブレイヴィーク受刑者の訴えを認める判決を下しました。また、ノルウェー政府に対し、ブレイヴィーク受刑者の裁判費用を出すようにと通達。ノルウェー政府は控訴する構えです。 受刑者の権利を保障しながら、彼らの社会復帰に刑務所がどうコミットしていくべきか。「21世紀の刑務所のありかた」をめぐって、ヨーロッパ各国では様々な議論が展開されており、前述の受刑者によるインターネット使用もその一つとして注目を集めているのです。「プリズン・クラウド」のようなシステムを導入する計画は、ベルギー以外の国々からは聞こえてきません。しかし、イギリスのキャメロン首相は「21世紀のニーズに合った、モダンで効率のよい刑務所システムを作るべきだ」と、何らかの形で受刑者の待遇を変えるべきとの見解を示しました。 英政府の政策顧問を務めるマーチン・ナレー卿は昨年12月、受刑者が家族や友人といつでも連絡を取り、コミュニケーションを強化することが社会復帰の大きな一歩となるとして、受刑者へのiPadの支給を提言しています。また、ニック・ハードウィック英刑務所主席査察官も、出所後に備えた職探しやIT化の流れに慣れさせる目的で、刑期がまもなく満了する受刑者を対象にインターネットの使用を解禁すべきと主張。しかし、ネットのセキュリティ対策がどこまで徹底されるのか、受刑者がネットを使って被害者や家族に脅迫などを行う可能性はないのかといった課題はまだ解決しておらず、刑務所におけるネット解禁には慎重論が大勢を占めています。 (ジャーナリスト・仲野博文)