映画監督97人が“トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別反対”を表明 「中傷過激化を憂慮」
俳優らが撮影現場で直面した“偏見”
トランスジェンダーであることを公表し活動している歌手・俳優の中村中氏も、会見に出席し、自らの体験談を語った。 中村氏によれば、ある映像作品で“女装する男性役”のオファーをされたが、トランスジェンダーと女装をたしなむ男性は異なるので一度は断ったという。その後、監督から役柄をトランスジェンダーに変更し、演出に違和感を覚えたら変更も検討すると言われ、出演を承諾したそうだ。 しかし、台本は役の説明部分がトランスジェンダーに変わっただけで、内容そのものは一切変更されていなかったという。また、描写もステレオタイプなものばかりで「化粧を落としたら見られたものではない」など差別的なセリフも含まれていたという。 中村氏は「この監督は、トランスジェンダーと女装をたしなむ男性の違いを理解していない」と感じたが、限られた撮影時間の中で現場の進行を止めるのも気が引けて、結局指摘することができなかったと振り返った。 同じく会見に出席した俳優の水越とものり氏は、同性愛者であるとカミングアウトしたのが2015年。当時出演していた舞台のテーマが「命のバトン」であったことから、「性的マイノリティーは自殺率が高いと言われるが、自らが公表することで、誰かを勇気づけられるかもしれない」と、決意した理由を語った。 これによって、ファンが離れたり、仕事が減ったりするのではと危惧していたが、実際にオーディションの書類選考が通りにくくなったという。水越氏は「日本社会全体に性的マイノリティーに対する差別がある。このため、芸能界でカミングアウトする人が少ないのではないか」と推察する。 水越氏は今年、NHK連続テレビ小説『虎に翼』に同性愛者の役で出演した。 「日本のドラマにも、もっと性的マイノリティーの人物を登場させてほしい。日本にも10人に1人はいると言われているのに、ドラマで見かけないのは不自然」(水越氏)
東海林氏「空気を変えていきたい」
東海林氏は、個人の呼びかけにもかかわらず多くの賛同が集まったことに「うれしい驚きがある」という。 「映画やドラマ制作においては、ハラスメント講習を行ったりLGBTQ+の監修が入る作品が増えてきているが、一方で、大きな予算を持たない企画では必ずしもそうした対応を取ることができていないのが現状だ。その中にあっても、性的マイノリティーに対するハラスメント・差別を減らしていくため、今回のような声明で(差別に)反対する映画監督がいることを可視化することで、空気を変えていきたい」(東海林氏) ■杉本穂高 日本映画学校(現・日本映画大学)出身。神奈川県のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ(現・あつぎのえいがかんkiki)」の元支配人、現在は映画ライター。
杉本穂高