人手不足を解消する、SNSやAIを活用した革新的な採用手法
■深刻な労働力不足を克服する方法 米国では失業率と求人数がじりじり上昇する一方で、ヘルスケアや小売業界などでは、深刻な人手不足が続いている。さらに、ベビーブーム世代(1946~1964年生まれ)が1日1万人のペースで定年を迎えて労働力人口から離脱しており、テクノロジー業界や製造業でノウハウ移転の問題を引き起こしている。 なかには児童労働規制を緩和するなど、異例の労働力不足対策を講じる州もあるが、未開拓の人材グループが存在する。たとえば近年、フレックスタイム制やリモートワークの導入により、障害者の雇用率が上昇しているものの、採用プロセスでは依然としてこの貴重なグループが見落とされている。セカンドチャンス採用(犯罪歴のある人材の採用)も増えているとはいえ、現在の労働力市場において十分活用されていない。こうした比較的ニッチな機会に限らず、労働市場の進化に沿って、求人と活用可能な人材のギャップを埋める革新的な採用アプローチがますます必要とされている。 ■伝統的な採用活動の制約を克服する 伝統的な採用方法は試行錯誤を重ねて確立されたもので、長年変わっていない。ほとんどの企業はいまも、求職者へアプローチするために、就職フェアやホームページへの求人掲載、人材紹介会社を利用している。いずれも多くの採用活動に不可欠のツールであり、有効な戦略に寄与する可能性があるが、依然としていくつかの制約がある。たとえば(おそらく最大の制約要因だが)、こうしたアプローチは、明確に働く意思を持って求職活動をしている人にしか届かない。このギャップは、潜在的な労働力全体に働きかけることを難しくしている場合がある。これには、多様な従業員構成とするために重要とされながら過小評価されている属性も含まれる。 過剰競争的な労働市場では、伝統的な採用活動は当然行うべきものであり、組織はそれに加えて自社のブランドをアピールし、適切な人材に求人情報を届けるクリエイティブな戦略が必要だ。 幸いこうした採用の難題は、企業のマーケティング部門が長年行ってきた手法によって解決できる。つまり、既存の消費者向けの宣伝広告戦術を採用活動に応用することで、人事部門が抱える問題を解決できるのだ。 ■クリエイティブな求人広告の基礎 求人広告では、新しいチームメンバーを採用するために、組織の価値観や福利厚生、総合的な魅力をマーケティングする。有効な求人広告戦略は、募集中のポジションに応募者が惹かれるようにする(ダイレクトレスポンスマーケティング)と同時に、選ばれる雇用主としての会社のブランド認知を高める必要がある。この雇用者ブランディングは、先述の伝統的な手法とは異なり、効果的に候補者のターゲットを絞り、関与できる戦術であり、受動的な候補者へのターゲティングと言われることも多い。具体的な方法としては、雇用主としての企業の価値や特定の職種、あるいは個々の求人情報を、フェイスブックやユーチューブ、ティックトックなど、一般に人気の消費者向けプラットフォームで広告として提示することが含まれる。 採用業界は消費者向けマーケティング戦術に後れを取っているという指摘があるかもしれないが、厳しい労働市場の状況が進歩を促している。適切な人材を見つけるニーズは、これまでに増して差し迫ったものとなっており、採用活動におけるギャップを埋める方法を見つけることは、採用面で競争優位を確立するうえで決定的に重要になる。 伝統的な取り組みとは異なり、消費者向けプラットフォームで求人広告を打てば、企業は雇用主としてのブランドメッセージを、特定の属性グループに戦略的に届けることができ、ターゲットを絞った働きかけが可能になる。 たとえば、米国と中国の半導体競争が激化する中、米国内では人手不足が大きな制約となっており、関連企業は若者に、半導体開発やエンジニアリングの仕事に就きたいと思ってもらう必要がある。そこで、こうした企業は大学での宣伝活動を積極的に展開して、自社ブランドが学生の目につくようにし、学生生活の早い段階でこの種のエンジニアリングのキャリアを築きたいと思わせる活動を検討すべきだ。こうしたテクノロジー系人材市場では、掲示板サイトのレディットなどのプラットフォームを利用して、幅広いテック系ユーザー向けに雇用者ブランドを売り込んだり、具体的な求人広告を出したりしてもよいだろう。 ターゲットを絞った革新的な求人広告戦略では、従来の求人情報サイトを超えて、フールーやスポティファイ、ティックトック、X(旧ツイッター)、スレッズといった人気プラットフォームを活用してもよい。