【新春ビジネスレポート】格安ファッション業界大研究 ユニクロ帝国の覇権に揺るぎはないのか
安い、シンプル、機能性もある 巨艦に立ち向かうライバルたちの戦略とは── しまむら、ワークマン、無印良品、ライトオン、H&M、GAPほか
「ユニバレ」――。今から約15年前、若者の間で流行した言葉だ。着ている服が「ユニクロ」の商品であることがバレて、恥をかくさまを指しているのだが、今や「ユニバレ」はすっかり死語となった。 【図解】強みや弱点がひと目でわかる! 格安ファッション業界「最新勢力図2024」 FRIDAY記者がそう確信したのは、12階建ての超大型店舗「ユニクロ 銀座店」を訪れた時のこと。年始の高揚感に包まれた店内は、若者から老夫婦、外国人観光客に至る幅広い人々で賑わっていた。40代と思しき高級ブランドで身を固めた紳士も、セーターを物色している。その表情に恥じらいや引け目は一切なかった。 「日本の格安ファッションのブームの火付け役となったのが、’98年のユニクロの『フリースジャケット』(当時1995円)の大流行です。前年に北海道拓殖銀行や山一證券が経営破綻した影響で消費者の節約志向が高まる中、軽くて暖かく、それでいて安価なフリースジャケットが飛ぶように売れたのです」(ファッション産業に詳しいライターの南充浩氏) 好調時は年間で約2600万枚を売り上げるという驚異的なヒット商品に成長したフリースの貢献により、ユニクロは国民的アパレルメーカーの地位を築くことに成功した。 ところが、そんなユニクロの前に「ファッション性」という課題が立ちはだかった。’08年、スウェーデンに本社を構え、ユニクロと同価格帯の商品を展開する世界的なカジュアルブランド「H&M」が日本に進出。″黒船″の襲来により、ユニクロは窮地に陥った。 「『安いがダサい』というイメージを払拭するため、ユニクロは’09年に高級ファッションブランド『ジルサンダー』とコラボした『+J』シリーズを投入しました。当時としては異色のデザインで、消費者に『ユニクロにもお洒落な服がある』というイメージを与えることに成功したのです。 しかし、売れ行きは思ったほど伸びなかった。(アウターで約7000~1万5000円という価格設定は)ジルサンダーを知っている人から見れば安かったものの、ユニクロ価格に慣れている人々にとっては高すぎたんです。 これを教訓に、以降のコラボでは『通常よりも少し高い』程度の価格設定に変更。こうしてユニクロは、デザインと価格の両方で広く受け入れられる商品開発に成功したのです」(ファッション流通コンサルタントの齊藤孝浩氏) 現在、全世界に2400店舗以上(国内は約800店舗)を展開する日本一のファッションブランドとなったユニクロは、「超大量生産」という唯一無二の強みを遺憾なく発揮し、さらなるヒット商品を生み出し続けている。齊藤氏が続ける。 「スケールメリットを活かし、良い素材を大量に仕入れることで、一点あたりのコストを極限まで下げることに成功しました。優良企業だからこそできる力業もあります。ハイクオリティな素材の仕入れや製造を任せられる優秀な人材を、他の企業からスカウトするのです。 安く仕入れた良い素材を活かして高度な商品開発ができる人材を揃える――この戦略で、ユニクロは高品質、低価格を維持している。今年の初売りで、カシミヤのセーターが8990円で買えたそうですが、おそらく3万円近い価値のある商品です。ラグジュアリーブランドでも同じ生地を使っていますから」 ユニクロを運営するファーストリテイリングは、ユニクロよりもさらに安価なブランド「GU」(’06年創業)も国内に約460店舗展開しており、世界のアパレル企業で3位となるグループ売り上げ約2兆7000億円を誇る。 巨大帝国を前に、他の格安ファッション事業者は為す術もないのか――。否、業績を伸ばしているのは、ユニクロだけではない。国内店舗数でユニクロを凌ぐ「しまむら」もその一つだ。 「アパレル業界の中では経営効率が良いことで知られています。理由は在庫回転率です。ユニクロが60日であるのに対し、しまむらは30日を切ります。自社工場で商品を製造せず、卸売りを基本としていますが、商品企画力もあり、女性用の『裏地あったかパンツ』(’15年販売開始)は大ヒットしました。 今後は東南アジアを中心に海外展開を進めていくようで、既に台湾では黒字化に成功しています」(証券アナリストの宇野沢茂樹氏) 実は、しまむらは’18~’20年まで減収減益を続けていた。ところが’20年、鈴木誠新社長が就任してから、売り上げがV字回復している。 「しまむらは、多種多様な商品を広く浅く仕入れる『売り切れ御免型』のスタイルで成功してきました。ところが、前社長時代は売れ筋を多く仕入れ、品番を絞る戦略に走ってしまった。思いもよらない掘り出し物を見つけられるというしまむらの面白さが消えてしまったんです。 現社長は就任後、『売り切れ御免型』のスタイルに回帰し、『クロッシー』に代表される比較的高価な機能性衣類のプライベートブランドと両立させることで増収増益を果たしました」(前出・齊藤氏) 全世界に約1000店舗を展開する「無印良品」のアパレル事業も、今年は好調が見込まれるという。 「昨秋から、洗えるニットや撥水コート、『シワになりにくい長袖シャツ』など機能性商品のラインナップを増やしたことが功を奏したようです」(前出・南氏) 早くから機能性商品に強みを見出してきたのが、「吸汗速乾」「冷感」「疲労緩和」などの特性を持つインナーが絶大な支持を集める作業服専門店の国内最大手、「ワークマン」だ。 「ホームセンター最大手のカインズと同じベイシアグループの一員です。ユニクロ等に比べるとデザインはいまひとつですが、アウトドアに転用できる服も多く、機能性重視の人々のライフスタイルにマッチしている。急拡大の反動で売り上げが落ちているのが懸念点です」(流通ストラテジストの小島健輔氏) 機能性や売り方で各社が個性を発揮し成長を続ける中、苦境に立っているのが「チャンピオン」や「リーバイス」などのブランドを取り扱う「ライトオン」だ。 「リーバイスなどのジーンズを武器としていましたが、品質的に遜色ないジーンズを、ユニクロが半額以下の3990円で売るようになってしまった。ユニクロのジーンズはリーバイスやエドウインからスカウトしたデザイナーらが開発しています。 また、原価高騰による値上げもライトオンを苦しめています。低価格帯商品やラグジュアリーブランドの需要は今後も拡大しますが、中価格帯は苦しい状況が続きます。次の手を模索しているが、なかなか糸口が見つけられていないのが現状でしょう」(前出・齊藤氏) 機能的な商品を安価に提供する――。物価高が続く’24年、格安ファッション業界の争奪戦はさらに激化する。 『FRIDAY』2024年1月26日号より
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