「自分を知らない人々の中での演技は刺激的」 仙台出身で米国留学中の俳優岩田華怜さん一時帰国
米国へ演劇留学中の俳優岩田華怜さん(26)=仙台市出身=が、東日本大震災から10年後の被災地を舞台にした短編映画「最後の乗客」(堀江貴監督)の舞台あいさつに合わせ、一時帰国した。5日、河北新報のインタビューに応じた岩田さんは「毎日大変だけれど、それを超えた楽しさがある」と新天地での手応えを語った。 【写真】「言葉が通じず生きていくのに必死」。インタビューに応じる岩田さん=5日、仙台市青葉区の河北新報社 https://gaga.ne.jp/lastpassenger/ ―今年3月に仙台市内の1館からスタートした「最後の乗客」が全国で好評を集めている。 「ニューヨークでも交流サイト(SNS)を通じて反響を目にしていましたが、実際に舞台あいさつで映画を見た人と接すると、想像以上の感触でした。中には7回見たという人もいて、素直にありがたいです」 「被災地での父と娘の関係を軸とした映画で、これまで震災をテーマにした映画を見るのを避けていたという方から『今までの映画と違った』という感想もいただきました。震災の経験者の一人として、そういう声を掛けられる映画に関われたのは、光栄だと感じています」 ―4カ月前に米ニューヨークで留学をスタートさせた。 「英語でお芝居がしたいという夢をかなえるために渡米しました。言葉が通じず生きていくのに必死ですが、人種も文化も異なり、自分を全く知らない人々の中で演技をするのは刺激的。米国では多くの大学に演劇科があり、演技を学ぶということが日本よりも当たり前にできます。離れた世代の人の前向きに学ぶ姿を見ると、自分も頑張ろうという気持ちになれます」 「渡米する前は米国で学べば、演技に対して視野が広がっていくと思っていました。けれど、勉強すればするほど台本の読み方など演技の手法やメソッドは、これまで自分が信じてきたこととそこまで大きくは変わらないと気付きました。今までの自分の歩みが間違いではないと知り、安心感も得ています」 ―今の目標は。 「自分で脚本と演出、主演を務め、今年3月に仙台などで上演した朗読劇『10年後の君へ』を米国でもやりたいと思っています。資金面などクリアしなければならない課題は多く、どうやったらできるのか、さまざまな人に助言を頂いている段階です」 「渡米して初めてベッドの横に花瓶を置きました。それまで地震を心配して、倒れたら危険な物を枕元に無意識に置いていない自分がいました。地震が少ない米国では地震や津波などにピンと来ない人も多く、脚本の練り直しが必要だと思います。自分の古里で起きたことを、日本以外の人に伝えたいと思ったのは人生で初めてのこと。それを考えるのが毎日楽しくて、やりがいを感じています」 ■留学先で知り合ったデザイナー作製の青いドレスで登場 5日夜の舞台あいさつ 短編映画「最後の乗客」の舞台あいさつが5日夜、仙台市青葉区のフォーラム仙台であった。主演を務めた仙台市出身の俳優岩田華怜さん(26)が「まだ見ていない人にも映画の魅力を伝えてほしい」とPRした。 物語は東北のある都市を舞台に、タクシー運転手の遠藤(冨家ノリマサさん)と娘(岩田さん)の関係を軸に進む。遠藤はある夜、震災発生前日にけんか別れした娘と同年代の女性客を乗せる。女性が向かうのは津波で甚大な被害を受けたとある場所。途中で見知らぬ母子も同乗すると、映画は急展開し、衝撃のラストに向かう。 映画は今年3月に宮城野区にあった映画館チネ・ラヴィータでのみ上映されたが、口コミで好評を受け、全国50館以上に上映が広がった。米のグローバル・ノンバイオレント映画祭で、主演女優賞など5部門で最優秀賞に輝くなど海外からも注目を集める。 舞台あいさつに臨むため緊急帰国した岩田さんは、留学先で知り合ったという日本人デザイナー「シュン」さんが作製した青いドレスを着て登場。「映画が海外で高い評価を受けたことが、留学への追い風になった。運命的な縁を感じる」と振り返った。 舞台あいさつでは岩田さんが観客の質問に答える場面も。映画にちなんで父との思い出を問われると、震災発生直後にあったAKB48のオーディション以降、父と離れて暮らした当時を振り返り「頻繁に会えたので寂しくはなかったが、13年前のあの日が大切な人との最後の日になってしまった人もいる。映画を通して両親への感謝がより増した」と語った。 ◇ 短編映画「最後の乗客」は宮城県内ではフォーラム仙台など4館で、14日まで上映されている。
河北新報