Keishi Tanaka「月と眠る」#17 先輩と尾瀬でテント泊(後編)
Keishi Tanaka「月と眠る」#17 先輩と尾瀬でテント泊(後編)
ランドネ本誌で連載を続けるミュージシャンのKeishi Tanakaさん。2019年春から、連載のシーズン2として「月と眠る」をスタート。ここでは誌面には載らなかった当日のようすを、本人の言葉と写真でお届けします。 Keishi Tanakaの「月と眠る」 記事一覧を見る。 Keishi Tanakaさんの連載が掲載されている最新号は、こちら! >>>『ランドネNo。121 1月号』。
先輩と尾瀬でテント泊(後編)
音楽の先輩、「FRONTIER BACKYARD」、「SCAFULL KING」のドラマーとして活躍する福田”TDC”忠章さんと尾瀬でテント泊をした日の思い出、後編。今回は目的地に到着したところから話を進めようと思う。 #16 先輩と尾瀬でテント泊(前編)。 少し遠回りをし、アヤメ平を通るルートでテント場に到着した。歩行時間は約5時間。さっきまで足の限界を感じていたはずなのに、目的地に着いた安堵感と、いくつかの小屋が集まっているその光景が面白かったせいもあり、疲れは一旦どこかに消えていた。 「生ビール、冷えてます! 」の誘惑を一旦無視することに成功し、受付を済ませ、まずはテントを張ることにした。 約10年前、何度かタダアキさんと山登りをしたが、いつも山小屋に泊まっていた。山小屋が好きというのももちろんあるが、初心者にはテント泊という選択肢がなかった。 時は経ち、小さなテントを持った僕に付き合うように、今回はタダアキさんも初めてのテント泊を了承してくれたのだ。 10分ほどで、何もなかった緑の上にふたつの家が完成した。キャンプ場のソロテント泊と違い、イスも焚き火台もない、最小限の寝床を完成させたら、ここでビールでも飲もうかという話になる。自分のバックパックにも缶ビールを忍ばせて来たが、お店がやっているときはやっぱり生ビール。ちなみに、カウンターで生ビールを注文する僕の横で、タダアキさんは「まずは珈琲を飲みたい」と言った。だれに合わせるわけでもなく、それぞれのテント泊がスタートした。 何もしない時間を楽しんだあとは、夕食の準備。 もちろんそれぞれのクッカーを使い、それぞれが自分の食べるものを作るというのが基本となる。今回はテントの前ではなく、山小屋の前にあったベンチとテーブルを借りることにした。 この日の僕の夕食のことを少しだけ書いておく。米を炊こうということだけ決めて家を出発し、スーパーで目に入ったホタテの缶詰で炊き込みご飯にすることを決め、最後に湯煎するだけのハンバーグをカゴに入れた結果、炊き込みご飯なのかロコモコなのかわからないものができた。美味かったからそれで良いのだ。 それをビールで流し込みながら、昼間の話や少し昔の話をする。ふと夜空を見上げると、そこは星でいっぱいになっていた。 翌朝、眠い目を擦りながらテントから出ると、タダアキさんはもうすでに起きていた。少しゆっくりしたあと、どちらからともなく朝食の準備を始める。このあと歩くことを考えると、普段朝ごはんを食べない人も、山では食べておくべきだろう。僕も例に漏れず「普段は食べないのに山では朝ごはんを食べる派」である。 朝食を食べ、珈琲を一杯飲んだら、テントを片付けて出発。昨日は雨も降ったが、このあとはレインウエアの出番はなさそうだ。 昨日は背中に背負っていた至仏山を、今日は正面に見ながら歩くことになる。疲れもリセットされ、天気も良いので、これ以上ない最高の歩き日和だ。 「これぞ、尾瀬! 」と言わんばかりの景色を楽しみながら、至仏山に向かって進んでいく。晴れた日の尾瀬か原は本当に気持ちが良い。 季節によってその表情を変える尾瀬。もっと紅葉が進んだ尾瀬や、春の尾瀬にも来てみたいなと思う。そのときはまたタダアキさんに声をかけてみようと思う。