ベニシアが新型コロナに感染 1か月で体重が18キロ減……「長くないかもしれない」と思うと僕は涙が流れた
梶山正の「ベニシアと過ごした最後の日々」
2023年6月に亡くなったハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんの夫、梶山正さんが、妻と過ごした最後の日々をつづります。 【写真3枚】ゼラニウムやセージの鉢植えの並ぶ窓辺でくつろぐベニシアさん(2010年7月)
ホーム内で隔離生活
目が悪くなり、グループホームに入ったベニシアを僕は毎日訪問し、一緒に公園を散歩し、アイスクリームを楽しむ日々を送っていました。そんなささやかな喜びが、ある日突然断たれることになります。グループホーム内で新型コロナ陽性者が確認され、2022年7月12日から面会禁止になったのです。毎日の面会の義務から解放された僕は、はじめの数日間だけはホッと一息をつく気分になりましたが、だんだん不安が募っていきました。 「ベニシアさんのコロナ陽性を確認しましたので、彼女の部屋に隔離しています」。7月28日に、ホームの介護福祉士から電話がありました。 「ベニシアはどんな具合ですか?」と僕。 「はい、大丈夫ですよ。ベニシアさんは元気にしてますよ」 コロナにかかったのに元気って、と疑問に思いましたが、それ以上の確認はできません。 それからわずか数日後の8月上旬にホームから電話があり、僕は尿パッドと歯磨き粉をドラッグストアで買い、ホームへ持って行きました。面会禁止中なので、玄関の外で介護福祉士にそれを手渡しました。 彼は「じつは僕もコロナに感染して昨日まで休みをもらっていました。38度ぐらいの熱が出て、味覚もなくなり、しんどかったです」と予期せぬ発言。いつも僕を避けるような人だったので「アレッ、どうしたの?」と思いました。かつて、終末期医療の病院にベニシアを移そうかと考えて、僕がそこにコンタクトして以降、彼は僕にあまり話さなくなったと記憶しています。今日の彼は、コロナから回復して久しぶりに出勤できてうれしかったのかもしれません。とはいえ数日前に、ここでコロナに感染したベニシアの夫の僕は、暗い気持ちが続いていました。 8月22日、ホームからの電話を受けて、僕は不足している生活用品を届けに行きました。面会禁止は続いているので、玄関の外でヘルパーの若い男性にそれを渡しました。 「ベニシアは大丈夫ですか?」 「元気にしていますよ!」 それ以上、彼は何も言いませんでした。ここで働いているヘルパーは20代ぐらいの若者が多く、顔ぶれもよく変わりました。あとで分かったことですが、ベニシアは8月20日から発熱、倦怠(けんたい)感、痰(たん)がらみの咳(せき)など肺炎のような症状が続いていました。この日も、彼女の体調は悪かったはずです。