紀元前の殺人事件!? ボグボディ(湿地遺体)が封印していた古代アイルランドの残酷な秘密
容赦なく振り下ろされる斧
検死結果は彼の最期も明らかにしている。 斧が顔面,頭部、側頭部と三撃、さらに胸に一撃打ち込まれていた。頭蓋骨は割られ、脳が損傷、鼻から右目にかけ大きな裂傷がある。腹部にある40cmの切り傷からは、内臓が全て取り出されていた。古代アイルランド人は生贄の内臓で占いをしたり、祭壇に血と内臓を捧げて神々に祈ったことが記録されている。 ここで注目すべきは、彼の乳首が切り取られていたことだ。古代アイルランドには、臣下が王の乳首を吸い、服従の意を示す儀式があったことから、男性は王かそれに準ずる者で、その資格を失ったために、乳首が除去されたと考えられる。 古代ケルト人が持ち込んだドルイド教は、自然崇拝、輪廻転生、神々と人間は交渉しながら共存すると信じていた。王は象徴的にケルトの女神と結婚し、絶大権力者となるが、統治力がないと妻である女神が怒り、不作や疫病を起こす。その怒りを鎮めるために、失格者の王を“高貴な生贄”として女神に届ける儀式が行われていた事実からも、彼を失格王とみる学者が多い。 一方で、高価な整髪料とおしゃれな髪型から、彼は社会的慣習を破り、秩序を乱した罰で処刑された特権階級の放蕩息子とみる学者もいる。もしそうなら彼の罪は財力を背景に自由でダンディなライフスタイルを楽しんでいたことなのかもしれない。
柔らかい手と美しい爪を持つオールドクロウハン人
オールドクロウハン人は2003年6月、前述のクロニーキャバン人の発見場所から40km離れた所で下水工事中に発見された。腕から算出された身長は198cm。湿地遺体は北欧や英国でも多く発見されているが、こんな大男は他に類を見ない。年齢は20代始めで死亡時期は紀元前362~紀元前175年。労働者ではない柔らかい手、爪はきれいにマニュキュアが施されていた。
死にたくなかった巨人
男性は健康な若者だった。髪と爪の分析結果は、彼が肉食生活をし、富と贅沢を満喫できる階級にあったことを示していた。胃からは“高貴な生贄”の最後の食事とされた小麦とバターミルクが検出された。学者たちは、彼は不適切な王、戦いで捕虜となった他部族の王か王子、または貴族で、ドルイド教の祭司の命令により、“高貴な生贄”にされたと考える。 死への経緯は不明だが、彼が死を拒否したのは明らかである。根拠は腕に残る傷だ。暴れたであろう彼を抑制するため上腕部にあけられた穴には、ハシバミの枝で作ったロープが通されていたし、迫りくるナイフの攻撃から身を守ろうとした防御創が腕に残っている。 もしかしたら、男性はいったん運命を受け入れて最後の食事を取ったものの、死の間際で生への執着に囚われたのだろうか。 2メートル近い頑強な男の抵抗はすさまじかったに違いない。だが彼は胸を刺され、さらに乳首が切り落とされる。そして斧で首を断ち切られた後、身体は二つに裁断されてしまった。なんと凄惨な儀式だったことか。固く握りしめられた彼の両こぶしから恐怖、怒り、悲しみが滲みでているようだ。