日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウンドトラック(OST)の独自性と魅力
人気アーティストが新しいスタイルに挑戦する理由は?
なぜ本来のスタイルではないのに抵抗なくやれるのか。この点について以前、実力派のシンガーソングライターとして知られるイ・スンユンに尋ねたことがある。彼は穏やかに笑いながらこう話した。 「好き勝手にやってきた人間なので、たまに他の人のディレクション通りにやるのは結構面白いんです。『自分の歌だったらそこまでやらないけどなあ』とか『こういうやり方もあるんだな』とか、歌ってみるといろいろと考えたりします。今まで歌ったドラマの曲で最も印象に残っているのは『その年、私たちは』の挿入歌『丘の木』(2022年)。初めて聴いたときに『何でこんなにいい曲を俺に歌わせるんだろう』って思いました(笑)」 このような柔軟な姿勢が自身の新たな一面を発見することにつながり、同時にファン層も広がっていく。OSTへの参加は彼ら・彼女らにとってメリットばかりなのだ。前述のCrushも昨年の来日公演では『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』をはじめとするドラマの挿入歌をハイライトにしたセットリストで観客を喜ばせていたが、彼もイ・スンユンと同じスタンスゆえにOSTを大切にしているに違いない。 <世界的な大ヒットがOSTを変える!?> 韓国のOSTは何はともあれ、歌モノを押さえておくべきだが、実はインストゥルメンタルも聴くべきものが多い。個人的にBGMとしての完成度が高いと思ったOSTは、ドラマ『椿の花咲く頃』(2019年)だ。なかでもテーマソング「Bloom」は、主人公の喜怒哀楽がスキャットとボサノバのリズムで的確に表現されている。時代のトレンドに関係なくドラマに相応しいと思った音を感覚的にチョイスして組み立てる作業に関しては、韓国のコンポーザーはかなりレベルが高いのではないだろうか。 「時代のトレンドに関係なく」と書いたものの、トレンドに反応しながら質の高い作品を生み出すのも、韓国エンターテインメント業界の得意技だ。2022年にNetflixで配信が始まった『アンナラスマナラ -魔法の旋律-』は、アメリカの映画『ラ・ラ・ランド』の大ヒットや、韓国におけるミュージカルの盛り上がりを受けて制作されたと思しきドラマだが、物語からにじみ出るアジア的な哀愁を登場人物の歌でさらに際立たせる演出に他国にはない魅力を見い出せる。 韓国ドラマのOSTは、ローカルな味わいのあるコンテンツとして、無国籍化の一途をたどるK-POPとは違った愛され方をしてほしいと個人的には願っている。しかしながら『イカゲーム』のようなグローバルに大ヒットするドラマが次々と登場すると、どうなるのだろうか。そのあたりを心配しているのが、今の正直な気持ちだ。