【卓球】インバウンド応援団!世界中を旅する中国の「追っかけ女子」が卓球界を変えている
3日間で18万円をつぎ込む中国のインバウンド応援団は20代女性
それは今までの卓球の大会の雰囲気とは違うものだった。 12月17日に閉幕した名古屋でのWTT女子ファイナルズ。大会前から「コートサイドの特別チケットが売り切れになっている」と言われていた。 土曜日、日曜日でも会場全体で言えば、7割程度のお客さんの入りだった。その一角、コートサイドのチケット(2~3万円)や、スタンドの最前列(1万円)などに若い女性の観客が陣取っていた。 見ると、コートサイドには毎日同じ若い女性客が座っている。会場は入れ替え2部制(2セッション)なので、1日同じ席をおさえるだけで4~6万円ほどかかり、3日間ならば12~18万円分のチケットを購入していることになる。 しかも、その若い女性応援団はほとんどが中国から来たファンで、身なりもきれいで、選手の名前の入った横断幕を準備し、試合のたびに「孫穎莎!」「陳夢!」「王曼昱!」と推しの選手を声高に応援するのだ。中国選手の同士討ちになると、お互いが分かれて推しの選手を応援するので、同士討ちでも熱い応援合戦になっていた。つまり大会前のチケットを大量購入していたのは日本のファンではなく、中国の女性ファンだった。 以前の日本での国際大会では日本在住の華僑のグループ、日本在住の留学生などが集結し、「母国中国の選手」を熱く応援する姿はあったものの、今回のような中国から駆けつける「追っかけ推し活女子」は多くはいなかった。ブランド品を身につけ、高額チケット席をキープする彼女たちは見るからに、中国富裕層の子女なのだろうと推測できる。 中国と日本の対決では、推しの選手を応援する黄色い声と、負けじと地元の日本の男女混じえた応援団の声が交錯しながら、会場は非常に熱い雰囲気となった。日本選手にとって本来「ホーム」なのだが、ときに中国応援団によって「アウェイ」の雰囲気にもなっていた。 以前の国際大会では、日本の会場はシーンと静まり返り、聞こえてくるのは選手がミスした時の観客のため息ばかりで辛気臭かった。はては協会がスタッフにプラカードを持たせ、「ため息禁止」「ここで拍手!」となかば強制的な雰囲気作り(思えば相当変なことだ)に努めていた。 今回のWTTファイナルズでは計らずも中国からのインバウンド応援団のおかげで、日本の観客も触発された。 このような中国人の「推し活」は2015年頃から始まったと記憶している。2015年の世界選手権蘇州大会の時から会場には「丁寧(五輪金メダリスト)応援団」が大挙して押しかけ熱い応援と横断幕が掲げられていた。その後、劉詩ウェン(世界チャンピオン)、はては日本の石川佳純という女子の選手を、まるで宝塚歌劇団のファンのように女性ファンが追いかけ、一方で、馬龍(五輪金メダリスト)、林高遠などの男子選手を追いかけるファンも当然いる。 昔は国旗を掲げ、中国チームを応援するファンだったのが、今ではそれぞれ選手のファンクラブが結成され、ファンミーティングや選手の誕生日会を主催するなど、従来の「国の応援」ではない、個人の自由で、楽しみながらの応援スタイルに変わってきている。 世界選手権やWTTの試合でも中国の「推し活ファン」は高級ホテルに泊まりながら、選手を追いかけていく。彼女たちはプロ顔負けの望遠カメラを持ち、会場では連写のシャッター音がそこかしこで聞こえてくる。 以前よりも海外渡航の自由がきき、経済的にも余裕のある人たちが選手たちを追いかけながらもその国、土地の旨いものを楽しみながら旅行しているのだ。しかもほとんどが20代の若き女性たちだ。 中国が強いのは選手だけではない。中国の女性応援団は熱くパワフルで、卓球の国際大会の雰囲気を変えている。彼女たちのような「インバウンド応援団」は大歓迎。もし日本選手に「推し」がいるのであれば、1月の全日本選手権にも来てほしいくらいだ。
卓球王国 今野昇