『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は娯楽映画の“絶対的王者”に 脱帽するしかない111分間
ほとんど『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』なアクション
しかも今回は、コナンではなく服部平次がほとんど主人公といって差し支えないぐらいすべてを持っていくではないか。そういえば前回平次が劇場版に登場したのは、いきなりテレビ局を爆破した『名探偵コナン から紅の恋歌』。その前の年が“黒ずくめの組織”との対峙を描いた『名探偵コナン 純黒の悪夢』だったので、今回もまたガラリと劇場版のカラーを転換させる役割を平次が担ったことになる。新撰組・鬼の副長こと土方歳三にまつわる刀に端を発したお宝探しがメインプロットとなるなかで、登場シーンから揚々と場を掻っ攫わんという空気を醸しだし、かと思えばどこから持ってきたのかわからないバイクで怪盗キッドを追いかけて大立ち回りを繰り広げる。 ストーリーテリングの土台となる“謎解きミステリー”においてはコナンと終始同行するバディとしての役割を果たし、操車場でキッドの前に謎の剣士が立ちはだかるシーンや函館の街全体を使ったチェイスシーンでもたっぷりと見せ場が用意されている。さらに遠山和葉との恋模様の進展が、“因縁の”怪盗キッドの登場によって盛り上がり、またほぼ上空(と電話口)から関与してくるだけの大岡紅葉の存在によってコメディとしてのポジションもほしいままにしていく。そして極め付きはクライマックスのアクション。あれはほとんど『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』だ。 それこそ怪盗キッドが前回登場した劇場版である『名探偵コナン 紺青の拳』でシンガポールの国家的シンボルたるマリーナ・ベイ・サンズをいとも容易く破壊したように、『名探偵コナン』の劇場版シリーズにおいてはスクリーンスケールを存分にアピールするようなド派手なディザスターシーンが見せ場となってきた。ところが今回は、あると言えばあるが、大惨事とまではいかない程度に留められている。もっともそれは、函館という実在のロケーションを使う上での作り手としての配慮のようなものだろうか(だったらシンガポールのあれはなんだったのかという話になってくるが)。 それでも先述の平次が見せるクライマックスにおける重力無視のアクション。それは映画冒頭にみられる時代劇シークエンスでの生々しい殺陣に始まり、劇中でひとつひとつ積み重ねられてきたアクションとスペクタクルのクレッシェンドがあることによって無理矢理ではない、コナン映画らしいクライマックスの運びとして成立しうるものだ。しかもそこで繰り広げられる剣を交えるというアクションによって、序盤の怪盗キッドとの格闘と対比することになり、いずれにおいても平次の心のなかにはブレることなく和葉の顔が浮かび続ける。“アクション・ラブコメ・ミステリー”という新種の語り口を111分間あますところなく詰め込まれてしまっては、もうとにかく脱帽するほかない。
久保田和馬