かつての「A5の牛肉」は本当においしかった…「A4がA5より高値」という逆転現象が起きている理由
和牛の最高峰と呼ばれる「A5ランク」は、本当においしいのか。肉YouTuberの小池克臣さんの著書『肉ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める肉の教養』(クロスメディア・パブリッシング)より、解説をお届けする――。 【この記事の画像を見る】 ■食肉の格付けを決める2種類の指標 「A5ランク」というのは、まさに和牛を象徴するような言葉です。 焼肉好きを中心にこの言葉が世の中に広まった頃、誰もが最高級の肉質を意味するものだと思っていました。今では海外でも、A5という言葉が広まり、和牛の最高峰であると信じられています。 ここでA5という言葉について、正しく理解する必要があります。 A5を含めた格付けは、食肉関連の公益法人である日本食肉格付協会によって定められました。 この格付けは、「歩留等級」と「肉質等級」という2種類の指標から構成されています。 ---------- 歩留等級……枝肉から得られる部分肉の割合をA~Cの3段階で評価し、最上位はA。 肉質等級……霜降りの度合いを中心に、色沢やきめ等により複合的に1~5の5段階で評価し、最上位は5。 ---------- ■和牛の約60%が「A5」 例えば、歩留等級は霜降りと呼ばれる筋肉の中の細かな脂肪ではなく、売り物にならない皮下脂肪の量が多いほど評価が悪くなり(C)、逆に皮下脂肪が少ないと評価が良くなります(A)。 また、和牛のほとんどを占める黒毛和種の場合、約95%がAに評価されています。 逆に交雑牛や乳用牛の場合、BやCとして評価される牛が増えてきます。 そして、肉質等級を含めた格付け全体では、黒毛和種(去勢)の約60%がA5、約30%がA4に評価されています。 このようにデータを見ていくと、黒毛和種の半分以上は、実はA5に関する和牛という不思議な状況が生まれているのです。
■「肉の格付け」は味に関係があるのか ここで検討したいのは、このようなA5、A4などの肉の格付けは味に関係があるのかどうかです。よく見かけるのは両極端な2つの答えです。 1つはA5の細かなサシがいっぱい入った霜降りの和牛は、サシ由来の柔らかさと甘みがあり、口溶けが最高というもの。 もう1つはA5という等級は見た目の脂肪の評価であって、美味しさの評価との関連性はないというものです。 これらはどちらも正しい側面があります。 ■かつての「A5」は本当に美味しかった そもそも格付けが定められた頃、A5の牛は本当に美味しいものでした。というのも当時のA5発生率は、現在とは比べものにならないほど低いものでした。 かつては血統の良い牛を選び、良質な飼料を与え、牛にストレスを与えないように大事に肥育すること、つまり、生産者の目利きと技術、手間を惜しまない労力があって、初めてA5の牛になることができました。 だからこそ、当時のA5の牛はどれも本当に美味しかったのだと思います。