菅生新樹があらためて感じた演じることの魅力 高橋文哉は「本当にすごいなと心から思う」
演じれば演じるほど難しさと楽しさを感じる役者業
――菅生さんは本格的な役者デビューが22歳。年齢的には決して早いスタートとはいえませんが、ご自身の中で引け目を感じたり、悩んだりすることもあったのでしょうか? 菅生:そこに引け目を感じたくないし、言い訳にもしたくないからこそ、“役者としてのあり方”についてすごく研究しています。「この役者さんがこういう感じなら、自分はどこの隙間に入ればいいのか」「自分は何を得意としたら強みになるのか」と、分析するんです。そこから、経験が少ない自分が埋もれないためにはどうすればいいのかをマネージャーさんと話して、アウトプットして、実際に行動に移してみる。逆に、僕は一般的な学生生活をすべて経験して、アルバイトもずっとしていたので、“自分たちが演じる人たちのリアルをより知っている”ということが自信にもなっています。 ――たしかに経験は武器になりますよね。そんな中、俳優業を続けられてきて、手応えやご自身の成長、面白さなどは? 菅生:『下剋上球児』(TBS系)という作品を経て、違う仕事で地方に行ったときにエキストラのみなさんが「観てたよ」とか「良かったよ」ってすごく言ってくれたんです。そんな経験は初めてで、そのときに「年齢問わず観ている人がいて、たくさんの人に良い時間を過ごしてもらえたんだ」とあらためて思いました。たとえば「視聴率がよかった」とか「何万人の人が観てくれた」とか、数字で言われてもよくわからないです。でも、「ちゃんと届いているんだ」と実感できたときに、自分が出る作品によって楽しんでくれる人がもっともっと増えればいいなって。それは自分の成長というよりも、この仕事の魅力を感じた瞬間でした。 ――芝居に対する思いの変化もありますか? 菅生:いろんな役を演じることで僕自身の考え方も変わってくるし、演じながら「こういう表情が出るんだ」「こういうことができるんだ」と知らない自分も発見できるので面白いです。ただ、最初よりも複雑に考えるようになってきちゃった、というのはありますね。まだたった2年ですけど、今回のように同年代が多くて、おんぶに抱っこじゃいけない現場が続いているので、そこで自分の力のなさも感じますし、自分が成長しなきゃいけないな、とも思います。 ――常にご自身に喝を入れているんですね。 菅生:僕、考えすぎる癖があるんですよ。でも、自分を追い込むのはいいけれど、考えすぎることで自分を卑下したくないなとは思っています。やっぱり1年目は何もかもわからなかったので、とりあえず台本を覚えて、時間通り現場に行って、自分でプランを考えてやるだけでよかったけど、ありがたいことに少しずつ重要な役どころをやらせてもらえることが増えて、ただただ本能のままいるわけにもいかなくなったというか。存在感を発揮しなきゃいけないと思うようになるにつれて、演じることが難しくなったし、この仕事へのリスペクトも高まっています。裏がわかるようになったからこそ、自分が観ている映画や好きな俳優さんに対して、より尊敬の念を抱くようになりました。 ――一方で、演じることの楽しさも増していますか? 菅生:もちろん増しています。でも、やっぱりまだまだ地に足がつかない瞬間がたくさんあって、自分に余裕が持てるようになれば、もっと楽しくなるだろうなと思うんです。それは場数もそうですし、いろんなことを経験しないとできないことだと思うので、今できる精一杯を一所懸命やる。そうして余裕ができれば、さらにいろんなアイデアが生まれてくると思うので、もっともっと楽しみたいです。 ――その先に目指す俳優像はあるのでしょうか? 菅生:“誰”ということはないです。ただ、役所広司さんが主演された『PERFECT DAYS』を観たとき、本当に圧倒されました。何か大きな出来事が起こるわけではなく、役所さん演じるトイレ清掃員のおじさんの日常を淡々と描く物語で。そんな作品の最後に、主人公が車を運転しながら夕日に照らされて泣くシーンがあって、長回しで一言も喋らないんです。普通はずっと同じ画角ってつまらないし飽きるはずなのに、そのときずっと観ていられるなと感じて、「いつかこういうシーンをやりたい」とすごく思いました。伏線があった上での“良さ”ではなくて、極論ストーリーや役に頼っていない、あのシーンだけで感動できるくらいに圧巻だったんですよね。ただそこにいるだけで、何か刺さるものがある。そういう表現者になりたいという思いは、初めから変わらずに持ち続けています。
nakamura omame