写真・図版：プレジデントオンライン

■TBSの営業も最近は顔写真を載せている 　TBSに勤務していた時代には、名刺に色々と書くのは意味がないことだと考えていました。会社名と部署名、名前、それに連絡先があれば十分。仕事をする相手にとっては、「TBS制作局制作二部」という情報さえあればいい。わざわざプロデューサーという肩書を名刺に書いている人を「自分のプロデューサーとしての能力が低いから書いているんだ」と思っていました。実際、プロデューサーという肩書を持つ人には、まっとうな人もいるけれど、いかがわしい人もいます。 【画像】仕事実績が死ぬほど書いてある門田氏の名刺裏 　そんな自分が「バラエティプロデューサー」を肩書に使い始めたのはなぜか。フリーランスになったことがきっかけでした。 　名刺交換をする相手には、事前に自分の仕事の実績を知っていてアポイントを取ってくれる人と、たまたま一緒に仕事をすることで名刺交換をする人がいます。今の仕事で調子がいい人ほど、実績を知らないフリーランスに「誰かわからないオッサンだろう」という態度で接してくる。テレビ業界に限らず、一つのプロジェクトに様々な関係者が集まるIT業界でもそういう人がいると聞きます。 　自分が名乗るときも、肩書がないと、ただ「角田です」と言うしかなくて落ち着かない。そこで、自分の仕事を端的に説明する肩書として「バラエティプロデューサー」を使い始めたのです。 　名刺の裏には、これまでの仕事の実績をびっしり書いています。「裏に死ぬほど書いてあります」と紹介すれば会話のアイスブレークになりますし、過去の実績にピンときてくれれば、そこから仕事に繋がることもあります。名刺は自分を売り込むチラシであり、企画書でもあるのです。最近ではTBSのような大企業の営業でも顔写真を載せた名刺を使っています。 　相手を慮るよりも、仕事相手に自分をどう見せたいかが先に来ればいいのではないでしょうか。

■相手を慮るより、自分を売り込んだほうがいい 　連絡先にどのツールを書くかも、どうコミュニケーションを取りたいかの表現の一つ。携帯電話の番号を書いていれば携帯に電話してもいいということだし、メールアドレスを書いていれば直接連絡して構わないということでもある。社長や役員で個人のメールアドレスを書いている人に会うと、「この人は外からの連絡にオープンなんだ」と好印象を受けますね。 　ただ、個人的には名刺の定型は守ってほしい。正方形だったり、二つ折りになっていたりといった奇抜な形状は、名刺ホルダーで管理している人間からすると整理がしにくくて困る。正方形の名刺ならまだ鉛筆を使ってホルダーから引き出すこともできるけれど、それも手間がかかるし、折り畳まれて分厚過ぎる名刺だとそもそもホルダーに入らないんですよね。 　「独創的なフレンチ」であっても、メインディッシュを最初の料理にすることはありません。フレンチのコース(型)を守りながら、独創的な料理を作ることはできる。名刺も同じで、名刺という型の中でその人を上手く表現してほしい。名刺の表現に、仕事そのものの力量も表れるのではないでしょうか。 　何より、「名刺を切らしてまして」というのは、腹が立ちますね。テレビ業界には、「タレントは名刺を渡さない」という不文律があります。名刺交換をする相手はマネジャーで、タレントはその人がいることで企画が成立しているからです。名刺を持っていない人を見ると、「あなたは名刺という企画書抜きでも仕事が成立するタレントなんですか」と言いたくなってしまいます。 　「あとでメールします」と言われても、検索するのが大変ですよね。名刺交換してから5年くらいは、「あのときの仕事ぶりがよかったな」と思い出して、別の仕事をお願いすることがあります。ただ、ふわっと思い出しても名刺が残っていないと連絡先を検索しようがない。名刺一つといえども、一期一会の仕事を大切にしているかどうかが表れるのです。 　※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 角田 陽一郎（かくた・よういちろう） バラエティプロデューサー 1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの！』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』（ぴあ）、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』（アスコム）などがある。 ----------