「デイジー・リドリーの“本当の才能”をみなさんはまだ見ていない」監督が語る魅力
『スター・ウォーズ』シリーズで注目を集め、日本でも人気の高い俳優デイジー・リドリー。そこで今回は、演技力が再評価されただけでなく、初挑戦したプロデューサーとしての手腕も光る主演最新作をご紹介します。 『時々、私は考える』 【映画、ときどき私】 vol. 651 オレゴン州アストリアの閑散とした港町に暮らすフラン。人付き合いが苦手で不器用な彼女は、会社と自宅を往復するだけの静かで平凡な日々を送っている。友達も恋人もおらず、唯一の楽しみといえば、ちょっと変わった幻想的な“死”の空想にふけることだった。 そんな彼女の前に現れたのは、フレンドリーな新しい同僚ロバート。彼とのささやかな交流をきっかけに、フランの日常はゆっくりときらめき始める。ふたりは順調にデートを重ねていたが、フランは心の足かせを簡単には外せずにいた…。 難しい役どころを繊細に演じ、「新たな一面が発見された」と絶賛されているデイジー。そこで、彼女の魅力についてこちらの方にお話をうかがってきました。 レイチェル・ランバート監督 2023年インディワイヤー誌が発表した「注目の女性監督28人」に選出され、今後の活躍が期待されているランバート監督。長編映画3本目となる本作が、日本で公開を迎える初めての作品となります。物語の魅力やデイジーとの現場の様子、そして観客に伝えたい思いなどについて語っていただきました。 ―まずはこの脚本を映画にしたいと思われた決め手について、お聞かせください。 監督 プロデューサーから勧められた脚本を初めて読んだのは、2020年11月のこと。すごく自分に響く内容だなというのが第一印象でした。描かれているのは、自分には何かが足りないと感じている人物が日常生活における小さな行動に意味を見出そうとしている物語。自分の気持ちを表現し、他人と繋がることができるようになっていく姿がコロナ禍を経験した自分と近いと思って、心を動かされました。 ―キャスティングの際、いつもなら複数名を候補に挙げるところ、今回はフラン役にデイジーさんの名前しかプロデューサーに伝えなかったそうですが、そう思った理由は? 監督 脚本を読み終わったあと、「絶対にデイジーがハマる」と思いました。なぜかというと、この物語は説明的ではなく、非常に知的なタッチなので、文学的な素養を持ち合わせているデイジーなら合うだろうと思ったからです。そこで、私たちのほうから彼女に企画を持っていくことにしました。 それに彼女は鋭いユーモアの持ち主でもあるので、面白いキャラクターであるフランの魅力を理解してくれるはずだと感じたのです。あとは、ありのままでいることに対してひるんでいないフランと、役者として恐れ知らずの部分があるデイジーには通じるところがあるのではないかなと。そういったフランのさまざまな側面も、彼女には響くと思いましたし、作品自体も意義深いので、そこに興味を持ってもらえるだろうという気持ちでお願いしました。 現場に現れたデイジーは、キャラクターそのものだった ―劇中ではフランの表情やしぐさなど、細かいこだわりを感じさせましたが、演出面で意識されたことはありましたか? 監督 それは私の力ではなく、すべてデイジーのおかげです。もちろん私が必要なときはそばにいるようにしていましたが、もともと私は俳優たちがしたいことを優先するタイプの監督。話し合いをするなかでどういう演技にするかについては一緒に考えるものの、役作りのプロセスは彼らのものなので、基本的には任せています。 ―そのなかでも、現場で印象に残っていることはありますか? 監督 撮影初日のことですが、部屋に入ってきたのはデイジーではなく、フランそのものだったことに驚かされました。身体の動きや声、歩き方だけでなく、イギリス出身の彼女がアメリカのアクセントになっていたので、それらすべてを習得したのは彼女の力量ですよね。 技術的な素晴らしさはもちろんですが、他人の心や感情にアクセスする方法の両方を持ち合わせているのがデイジー。おそらくみなさんは、彼女が持っている“本当の才能”をまだ少ししか見れていないのだと思いますよ。 日本の映画からは、忍耐強さと思慮深さを感じる ―フランが抱く死に対する興味というのは、誰にとっても生きるうえで永遠のテーマのようにも思いますが、監督自身も彼女に共感したり、同じ経験をしたりしたことがありますか? 監督 もちろんあります。おそらく、フランに共感しない人よりも、共感する人のほうが多いんじゃないでしょうか。だからこそ、死に対する妄想は決して批判されるべきではないということも伝えたいと思いました。なぜなら、それは自分を罰したり傷つけたりしたいと思ってしているわけではなく、あくまでも私たちの一部であると考えているからです。 そういったこともあり、彼女が見る妄想は誘惑されるような映像にすることが今回はとても重要でした。フランが惹かれるようなイメージにすることによって、彼女が求めているいくつかの感情を見せたいなと。フランには逃避や平穏に対する強烈な思いがありますが、それと現実世界の日常がうまく組み合わせられないだけなので、頭のなかにある豊かな世界によって彼女は自身のフラストレーションを癒しているのだと思います。 ―監督の作品が日本で公開されるのは初めてですが、日本に対しての印象について教えてください。 監督 私が持っている日本に対する知識というのは、すべて映画を通して得たものであって、まだ行ったこともないので日本について話すのはちょっと怖いなと感じています。というのも、私たちアメリカ人というのは、知らないことを間違ったまま言ってしまいがちですからね (笑) 。 ただ、日本の映画を観ていると、忍耐強さや思慮深さがあるだけでなく、観客が思考することを許容しているような部分がある気がしています。私自身もそういう映画作りが好きなので、日本映画のストーリーテリングには惹かれることが多いです。あとは、やっぱり日本食が好きでよく食べるので、私はこのふたつの文化を通して日本に触れています。 いまだに女性の価値が見出されていないのは問題 ―本作のフランというキャラクターは日本人が共感しやすい人物のように感じましたが、影響を受けている部分もあるのでしょうか。 監督 そうですね。たとえば、黒澤明監督はひとつのシーンに複数のキャラクターを入れ、ときにはカメラを動かさないままそのなかでいろんなことが起きていく様子を撮ることがありますが、私も映画を作るうえでの好みは似たようなところがあります。そういったシーンの見せ方に関しては、影響を受けている部分があるのかもしれませんね。 ―それでは最後に、フランのように恋愛や人生に悩んでいるananwebの女性読者に向けて、メッセージをお願いします。 監督 女性でいることにつらさを感じる場合もあると思いますが、それはどこで暮らしている方でも共通していることです。女性の価値がしっかりと見出されていないことは、人類にとって何世紀にもわたる問題だと言えるかもしれません。でも、だからこそ相手の痛みや葛藤がわかるのは女性同士なので、お互いに癒しながら一緒にがんばっていきましょう。 不器用な大人のためのおとぎ話 孤独を感じたり、他人に対してつい臆病になってしまったりする姿に共感を覚える本作。周りから見たら小さな1歩でも、勇気を持って踏み出すだけで“愛おしい世界”がきっと待ち受けているのだと感じさせてくれるはずです。 取材、文・志村昌美 目が離せない予告編はこちら! 作品情報 『時々、私は考える』 7月26日 (金) より新宿シネマカリテほか全国順次公開 配給:樂舎 (c) 2023 HTBH, LLC ALL RIGHTS RESERVED.