ふるさと納税の返礼品に「人間国宝の450万円の作品」が 寄付する側の年収は1億円超え
ふるさと納税の寄付総額は、今や1兆円を突破しようとしている。一方で、名産品がない都市部の自治体は軒並み「受入額」より「控除額」が多い流出超過に悩んでいる。東京都北区も同様だ。 【写真を見る】返礼品に選ばれた「450万円の湯沸かし」
ふるさと納税のサイトから北区の返礼品を見ると、渋沢栄一の邸宅があったことにちなんだ「渋沢グッズ」や、荒川河川敷のゴルフ場で使えるクーポンが並ぶ。だが、牛肉はないし、もちろんカニもない。そこで、起死回生の策というわけなのか、北区が返礼品のラインナップに加えたのが人間国宝の作品である。
100万円のワインカップに申し込みが
北区の税務課の担当者が言う。 「当区内には、人間国宝で金工鍛金家の奥山峰石(ほうせき)さんという方が住んでおられるのですが、この方は名誉区民でもあります。そこで奥山さんの作品を返礼品のラインナップに入れたところ、昨年、銀製ワインカップ(寄付額100万円)に1件、銀製ぐい飲み(同60万円)に2件の申し込みがあったのです」 奥山氏は山形県の現・新庄市生まれ。10代で上京し、鍛金一筋70年以上の名工だ。文化庁長官賞、高松宮記念賞などに選ばれ、1995年に重要無形文化財(人間国宝)に認定されている。北区の名誉区民には、故ドナルド・キーン氏などもいたが、現役で活躍しているのは奥山氏一人。
450万円の湯沸かしもラインナップに
ちなみに人間国宝の作品をふるさと納税の返礼品としているのは北区だけではない。佐賀県有田町では有田焼の有名陶芸家の作品、沖縄県読谷村(よみたんそん)では地元の作家の紅型(びんがた)染めを返礼品にしている。 ふるさと納税には、地場産品基準というのがあり、たとえば形のない「電気」でも地元で発電されたものなら返礼品に指定しても構わない。人間国宝の作品も当該の自治体で作っていれば、返礼品にできる。というわけで、北区は奥山氏の作品で流出超過を少しでも食い止めようともくろんでいる。 「60万~100万円の作品に申し込みがあったので、今年からは、奥山さんが作った銀製の湯沸かし(寄付額450万円)と、急須(同300万円)も返礼品に加えました。申し込みが殺到しては困るので、JR東日本系のふるさと納税サイトにだけ載せてあります」(同) 450万円の控除上限額は、ざっくり言って寄付する側の年収が1億円を超える計算になる。金持ちの懐を一点に狙う北区の作戦は、うまくいくのだろうか。 「週刊新潮」2024年6月6日号 掲載
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