五十嵐カノア「個人目標は金メダルですが、僕が勝てなくてもチームの誰かが金メダルを獲れればいい」──パリ五輪に挑むアスリートたち_Vol.1
2024年開催のパリ五輪出場が内定しているサーフィン男子の五十嵐カノア。金メダルを目標に掲げる世界的サーファーは、海洋保全活動にも積極的だ。パリ五輪の意気込みから、ハーバード大学院に通う理由も含めて、26歳に訊いた。 【写真を見る】五十嵐カノアの名場面を振り返る
五十嵐カノアは世界で最も危険な海で金メダルに挑む
パリ五輪で日本代表選手としてサーフィン競技に出場する予定の五十嵐カノアは、昨秋よりハーバードビジネススクール(大学院)に通っている。シーズンオフはサーフィンやトレーニング、授業をやり繰りして過ごした。ロサンゼルスとヨーロッパの拠点と学校を行ったり来たりの忙しい日々を送っていたというが、五輪前年の大事な時期に、何を学ぶのだろうか? 「子どもの頃から一番大切なのが勉強で、サーフィンをするなら宿題を終わらせてからにしなさいと言われて育ちました。けれども、ここ何年かは勉強する機会がなくて、何か物足りない気持ちがあったんです。そんな時に興味のあるビジネスについて学ぶチャンスがあったので、チャレンジしました」 日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語の5カ国語を話すカノアは、15歳で高校を飛び級で卒業するほど学業優秀なアスリートだ。東京五輪でも複数言語で取材に応じている。ハーバードではビジネス全般について学んでいる段階で、やがて興味のある分野に絞っていくことになる。 「今は1週間に一度、先生とミーティングをして、それに基づいて自分でスケジュールを組み立てています。一緒に学ぶまわりの友達はみんな個性的で、例えば海を守る方法について話をしていると、『環境保護の団体やファンドを作りたいね』といったアイデアが生まれたりします。僕の場合、やはり海を守ることに貢献できるビジネスを学んでいきたいですね」
ところで、パリ五輪が行われるタヒチ島のチョープーについては、ジャッジタワーがサンゴ礁を破壊するのではないか、との指摘もあるようだ。どうすれば海への影響を最小限に抑えることができるのか、カノアはこの問題についても積極的に発言している。 「僕たちがサーフィンを楽しめるのは、きれいな海のおかげです。素晴らしいタヒチの環境を守りたいし、地元の人にもオリンピックが来てよかったと思ってもらいたい。SNSだけを見ていると、僕たちとISA(国際サーフィン連盟)がケンカをしているように受け取られるかもしれません。けれども海を守りたいという思いは、僕らもISAも同じ。きっといい妥協点を見つけられると思っています」 チョープーはカノア自身にとっても特別な場所なのだという。少年時代の興味深いエピソードを教えてくれた。 「チョープーは波が巨大で、海は浅くてリーフが点在します。12歳の時に僕は初めてここでサーフィンをしましたが、サンゴで腕を切ってしまったんです。その時は『怖いから二度と来たくない』と思っていました。怪我をした先輩を励ましながらドクターヘリの到着を待ったこともありましたし、とにかく危険な場所です」