バルセロナ、絶好調の鍵は欧州5大リーグトップの「トリデンテ」と「ハイライン」にあり
今季、バルセロナの勢いが止まらない。これほど強い“アスルグラナ”を見るのはいつぶりだろうか。 コロナ禍以降、未曽有の財政難に陥り、サラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)の影響を受け、満足いく補強ができていない。さらに審判買収疑惑の「ネグレイラ事件」など、ピッチ内外で問題が山積みとなり、昨季は無冠に終わり、シャビ監督を解任した。 ■フリック監督でチーム状況は好転 今季の補強はダニ・オルモとパウ・ビクトルの2人だけではあったが、新監督にドイツ代表やバイエルン・ミュンヘンなどを率いたハンジ・フリック氏(59)を招聘したことで、チーム状態は好転した。 アラウホ、クリステンセン、ベルナル、テア・シュテーゲン、フェラン・トーレス、エリック・ガルシアが負傷欠場しながらも、4-0の大勝を飾った先月のクラシコでは、スタメンのうち6人(イニャキ・ペーニャ、クバルシ、バルデ、カサド、ヤマル、フェルミン・ロペス)が「ラ・マシア(バルセロナの下部組織)」出身だった。このようにバルサイズムを継承する選手を積極的に起用していることも、クラブの将来に明るい兆しを感じられる要因となっている。 若手とベテランがうまく融合したチームの、今季ここまでの公式戦成績は14試合12勝2敗。スペインリーグは11試合10勝1敗の勝ち点30で首位を走り、2位レアル・マドリードに勝ち点6差。欧州チャンピオンズリーグ(CL)は2勝1敗の勝ち点6で10位。 これまで敗れた2戦には明確な理由があった。初黒星を喫した欧州CLのモナコ戦(1-2)は早々に退場者を出したことが響き、スペインリーグのオサスナ戦(2-4)はローテーションで大幅に戦力を落としたことが裏目に出た結果であり、戦術面で大きな問題があったわけではない。 ■開幕から1試合平均3・6得点 バルセロナが今季成功を収めている要因のひとつに挙げられるのは、47得点、1試合平均3・6得点という圧倒的な攻撃力だ。このゴール数は16-17年シーズンと並び、シーズン開幕からの公式戦14試合における、21世紀以降のクラブ最多記録である。 また、スペインリーグの37得点は、欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)トップである。 この得点力を支えるのは前線の3人。フリック監督が全幅の信頼を寄せるレバンドフスキは、1試合平均1・2得点(公式戦14試合出場17得点)というハイペースでゴールを量産している。 次にゴールを決めているのはラフィーニャ。今夏の放出リストに載りながらも指揮官の手によって復活し、よりゴールに近い位置でプレーし、すでに過去2シーズンに並ぶ10得点を挙げている。 そして、今夏の欧州選手権ではスペイン優勝の原動力となって最優秀若手選手賞に輝き、今週、21歳以下のバロンドール「コパ・トロフィー」を受賞したヤマルが6得点で続いている。 公式戦で合計33ゴールを挙げているこの3人に匹敵する「トリデンテ(三又の矛=3トップの意味)」を擁すチームは、現在の欧州5大リーグに存在しない。この点で2番手につけるバイエルン・ミュンヘンの得点上位3人の合計は29ゴールである(ケーン15得点、ムシアラとオリーズ各7得点)。 ■今季最大の特長は「ハイライン」 バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリード相手に4ゴールという爆発力もさることながら、今季のバルセロナ最大の特長は「ハイライン」だ。フリック監督は「多くの監督に注目されているが、それは我々の哲学の一部だ。できるだけ高い位置でプレスをかけることを心がけている」と話し、練習で守備に多くの時間を費やしていることを認めていた。 その言葉通り、前線からの激しいプレスで相手の攻撃を封じることに加え、よく統率されたDF陣は裏を取られるリスクを恐れることなく勇敢にハーフウェーラインまで上がり、スペインリーグ11試合でオフサイドを77回誘発。クラシコでは今季最高の12回を記録した(※そのうち8回がエムバペ)。対戦相手のRマドリードにとってこの数字は、過去10年でワーストである。 77回は、欧州5大リーグで見てもダントツの数字だ。2番目のブライトン(イングランド)が35回であることを考えると、バルセロナのオフサイドトラップがいかにすごいのかが分かるだろう。 就任1年目にして即座に成果を上げているもののフリック監督は先日、「いくつかの点を改善する必要がある」と、ハイラインなどにまだ改善の余地があることを示唆していた。実際、Rマドリードに何度か、DF陣の背後を突かれてGKと1対1のチャンスを作られていた。最終的に圧勝したものの、もしテア・シュテーゲンの代役を務めているGKイニャキ・ペーニャのファインセーブがなければ、状況は違っていたかもしれないのだ。 今のバルセロナにはフリック監督と選手の間に強い信頼関係が感じられる。今後、指揮官が問題点を修正し、チームをどこまで完成度の高いものにできるのかが非常に楽しみである。 この調子を維持できれば、2季ぶりのスペインリーグ優勝はもちろんのこと、10季ぶり、通算6回目の欧州CL制覇も夢ではないだろう。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)