「パスポートはお持ちですか?」「携帯を切り車に乗りなさい」...日常の中で反戦ジャーナリストを突然襲う、ロシア当局〈E〉のヤバすぎる「やり方」
突然の連行
居住区の門を並んで出た。突然後ろに2人の警察官があらわれた。 「一緒に来ていただきましょう」一人が言い、警察の白いバンを指さした。 「どうしてですか?」わたしはいぶかし気に言った。 「すべてのご質問には後ほどお答えします」 警察車両から私服の男が出てきた。 「パスポートはお持ちですか?」わざと厳しい表情で彼はきいた。 黒い目出し帽を被った男は刺すような眼差しでわたしを見つめた。後でわかったが、これは〈E〉の捜査官で、常にわたしとわたしのSNSを監視している男だった。 「もちろん持っていません。犬の散歩にパスポートなんて持って出ないでしょう? パスポートを取りに行って、着替えて、犬を置いて戻ります」 「それはダメだ。あなたは逮捕されたのです」 「じゃあわたしがパスポートを取ってきましょうか?」アルトゥールが言った。 「そうしてください」 「アルトゥール、家は開いてるわ。母が庭の花に水をやっています。パスポートは廊下のクローゼットの白いバッグの中にあります。そこに電話番号のリストがあるから、一番上にあるクリスティーナに電話してください。クリスティーナは全部わかっています。それから弁護士と友人全員にも。それに犬も連れて帰ってもらえますか」
警察車両につけられた「戦争反対」のバッジ
ベリーは別れを予感して悲しげに鳴きだした。知らない人と急に家に帰ることになるとは、ベリーには何が何だかわからなかっただろう。 「おうちにお帰り、ベリー。わたしもすぐ戻るからね」耳を撫でた。 ベリーと子犬はアルトゥールの後ろについて、いやいや家のほうに向かった。 「クルマに乗ってください。携帯を切ってテーブルに置いて」過激派対策センターの男が命令した。 言われた通りにした。警察官は2つ目の携帯には気づいていなかった。携帯はわたしのポケットにある。しばらくするとアルトゥールがパスポートを持ってきてくれた。 警察車両はキエフ街道に出てモスクワ中心部に向かって走った。捜査官はドライバーの横に座り、わたしは2人の警察官と一緒に車両の一番後ろに座った。2人はずっとわたしから目を離さなかった。 明るい色のブラインドにバッジが2つついていた。ひとつは殺害された政治家ボリス・ネムツォフの肖像。もうひとつのバッジには「戦争反対!」と書いてあった。 「面白いわね。あなたたちはわたしを反戦容疑で逮捕しておいて、自分たちのクルマには『戦争反対』のバッジをつけているんだから」わたしは皮肉っぽく言った。 「これは逮捕者から押収したものです」警察官は素っ気なく答えた。 『「お前は祖国が嫌いなのか?」...神経性発作まで追い込まれた女性ジャーナリストへの止まらない「誹謗中傷」ロシア秘密警察の「残酷すぎる黙らせ方」』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ
【関連記事】
- 【つづきを読む】「お前は祖国が嫌いなのか?」...神経性発作まで追い込まれた女性ジャーナリストへの止まらない「誹謗中傷」ロシア秘密警察の「残酷すぎる黙らせ方」
- 【前回の記事を読む】「群衆の中には〈E〉の連中がたくさんいる」…ロシアの反戦集会に潜む政治警察が反体制者を摘発するヤバすぎる手口
- 【はじめから読む】ウクライナ戦争を伝えるロシア政府系のニュースで「あなたたちは騙されている」と乱入した女性…その時、一体何が起きていたのか「本人が直接告白」
- 「プロパガンダを信じるな」…ロシア政府系メディアに乱入して「プーチンの野望」を全国民に暴露した女性が語る「衝撃の顛末」
- 「何も罪のない人を巻き込んでしまった」…プーチンを批判したロシア人記者を襲う「ロシア当局」のヤバすぎる「報復」