毎田暖乃、3度目の朝ドラでも“強さ”を見せるか 『虎に翼』優未としての的確な演技
放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)は、愛すべき登場人物たちで溢れている。物語の進行によって状況が変わっても、いつだってヒロイン・寅子(伊藤沙莉)が魅力的なのだから、彼女の周りに集まってくる者たちもまた魅力的で当然なのかもしれない。 【写真】当時わずか10歳 『妻、小学生になる。』で名演していた毎田暖乃 しかし中には、寅子的にも視聴者である私たち的にも、ファーストインプレッションがあまり良くなかった者たちがいる。もちろん、やがてその印象はポジティブなものへと変わっていくわけだが。 その最たる存在といえば、轟太一なのではないだろうか。演じているのは戸塚純貴である。 本作に轟がはじめて登場したのは、第4週「屈み女に反り男?」でのこと。弁護士を目指していた寅子が明律大学の法学部に進み、そこで彼と出会った。当時の法曹の世界は完全に男社会。寅子は女子部の同志たちと連帯し、意を決しての進学だった。「男女平等」を謳う花岡悟(岩田剛典)に対し、轟は露骨な男尊女卑に固執する男。時代が時代とはいえ、現代の価値観からすれば完全に敵視すべき人物だったのである。 けれども、彼に対するそんな印象はすぐさまひっくり返った。轟は「男は男らしく、女は女らしく」という考えの粗野なキャラクターだったが、これは彼自身が持つある種のピュアさからくるものだというのがすぐに判明したのだ。作劇上のキャラクター設定によるものでもあるが、やはり演じる戸塚の功績は大きい。彼はリアリスティックな演技ではなく、轟のキャラクター性により重きを置いた、快活でダイナミックな演技に徹してピュアさを体現していたのだ。 やがて戸塚純貴と轟太一は化学反応を起こし、曲がったことが大嫌いな、噂やイメージなどに左右されない真っ直ぐで愛すべきキャラクターを、この『虎に翼』の世界に誕生させたのである。彼のこのような性格は、周囲の人々との関係性や時代が変わっていくにつれて変化していった。轟の好感度は回を重ねるごとに右肩上がり。その言動が物語の舵切りとして機能することも多く、私たちの実社会では「俺たちの轟」なる言葉さえ生まれたほどだ。 “戸塚純貴=轟太一”が登場すると、ワクワクせずにはいられない。これは私だけではないだろう。轟の成長に合わせて、戸塚の演技はしだいにリアリスティックなものに。終戦後は山田よね(土居志央梨)とともに法律事務所を開き、激動の時代に翻弄される者たちに親身になって寄り添ってきた。そのメンタリティが、戸塚の演技の質感の変化に反映されていると感じたものだ。そしてやはり彼は優れたプレイヤーだと、強く再認識したものだった。 ムードメーカーでもある轟は、いつも私たちを笑顔にしてきた。そんな彼の幸せを誰もが願っているだろう。しかし、そうもいかないのである(「幸せとは何か?」という問いはここでは置いておいて)。 先述しているように、轟は時間の経過とともに変化してきた。そして第20週の第100話では、彼のパートナーである遠藤時雄(和田正人)が登場。困惑する寅子に対し、「俺がお付き合いをしているお方だ」と明かした。 第11週の第51話では、大切な学友であった花岡の死に際し、轟が胸中を吐露する場面があった。あの頃の彼が自身のセクシュアリティに自覚的であったかどうかは明示されていなかったが、おそらく無自覚だったのではないかと思う。それこそ、時代が時代だった。「男は男らしく、女は女らしく」という時代だった。そしてそんな考えの陰で、透明化された人々が多くいた。人前ではいつも真っ直ぐに明るく振る舞う轟である。人前では見せない彼の本当の心の動きは、果たしてどのようなものだったのだろう。 寅子は恋人である星航一(岡田将生)からプロポーズをされ、「結婚」というものに向き合っていくことになる。それに対して轟と遠藤は、どれだけお互いを想い合っていたとしても、そこに法的な「誓い」を立てることができない。いままで寅子にも見えていなかった法律の壁だ。そしてこの壁に隔てられ、透明化された人々の存在を知るに違いない。轟がそんな彼ら彼女らの代弁者のひとりとなるのだろう。 大切に扱わなければならない、今日においても非常に大きなテーマだ。戸塚が背負っているものは大きい。演じるうえで求められるものは、これまでとはまた変わってくるのではないだろうか。大切に見守りたい。
折田侑駿