世界は民主主義を救えるか【寄稿】
ジョン・フェッファー | 米国外交政策フォーカス所長
世界的に民主主義が脅かされている。民主主義の国の有権者たちは政治機構を高く評価していない。米国議会がうまく運営されていると考える米国人は20%にも満たない。欧州連合(EU)では平均で約3分の1しか自分たちの政府を信頼していない。 いくつかの民主主義の国では反民主的な候補が高位の職に選出されている。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は4回連続で選挙に勝利した。インドのナレンドラ・モディ首相は10年あまりにわたって自身に権力を集中させてきた。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は過去28年のうち17年間、イスラエル政治のトップの座を守ってきた。さらに、きわめて反民主的な人物であるドナルド・トランプが、ホワイトハウスに復帰する。 独裁者は様々な国でたやすく戒厳令を宣言する。別の方法で一線を越える指導者もいる。トランプは2020年、自身が敗北した選挙結果を覆そうとして、翌年1月に支持者を議会に送り込み、大統領選の結果認証を中断させようとした。しかも2020年12月には、ホワイトハウス内部で戒厳令に関する議論が行われていた。最終的に軍隊を自分の側に引き込むことができなかったトランプは、やむを得ずホワイトハウスを去った。 非常戒厳を宣言した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の決定はさらに衝撃的だ。軍を引き入れたことから、おそらくトランプとは違い、非常戒厳が成功すると思っていたのだろう。キム・ヨンヒョン前国防部長官は、非常戒厳は全面的に自分のアイデアだと述べた。しかし、尹大統領とキム前長官は夏頃から実行の時期を話し合っていた可能性がある。 幸い、韓国の民主主義は非常に堅固なことが立証された。多くの韓国人にとって過去の非常戒厳の記憶が鮮明であるため、野党はすべての権力を掌握しようとする尹大統領の試みに対抗し、いち早く動いたようだ。民主主義の防波堤である政治機構、裁判所や市民社会は、自らの立地を守った。 別の核心的な防波堤として、文化がある。羞恥心は韓国社会では不可欠なものだ。恥を知る韓国の政治家たちとは違い、トランプは過ちを認め謝罪したことはまったくない。ホワイトハウスを再び手にするための彼の選挙運動は、自分がすべての疑惑に対して罪がないことを、米国人を相手に立証しようとする努力でもあった。 右派の政治家たちは、一般的に羞恥心が足りない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ人とロシア人の生活を破壊しているが、過ちを絶対に認めないだろう。羞恥心が欠如した指導者たちは、野党と関係を結び、政治制度を尊重し、失敗を認めることを拒否する。尹大統領は、トランプやプーチンのような多くの右派指導者と同様に行動したが、韓国では明らかに禁止ラインを越える行為である戒厳令を宣言せずに権力を掌握する方法をみつけられるほど、賢明ではなかった。 政治・経済の研究分析機関である英国の「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」の「民主主義指数」によると、「完全な民主国家」に住む世界人口は8%以下だ。米国など50カ国は「欠陥のある民主国家」と評価された。韓国はかろうじて「完全な民主国家」に分類された。韓国は「完全な民主国家」のうち最悪の「政治文化」の低評価が原因で、点数が下がった。 悲しい事実は、自分たちの民主主義を救う韓国の能力が、世界的にはますます異例の事例になりつつあるということだ。政治の二極化、不平等の深刻化、軍事的衝突、気候変動のストレス、新型コロナのような感染症の周期的な発生は、民主主義制度を著しく弱めている。 韓国のような国では、羞恥心のような文化的属性がある程度は抑制の役割を果たしている。ポピュリズムに訴える右翼のピープルパワーが民主主義を破壊している。尹大統領の戒厳宣布の直後に韓国人が示したようなピープルパワーは、いまも民主主義を救いうる。しかし、トランプが証明するように、羞恥心という要素は急速に消えつつある。 ジョン・フェッファー | 米国外交政策フォーカス所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )