池上彰さんが「第三次世界大戦は起きない」と考える理由。日本はこのまま平和でいられるのか?最新情勢を解説
【2024年6月18日11時00分追記】初出時、記載に誤りがあり、一部訂正いたしました。 空母から戦闘機や爆撃機が発艦し、ミサイル巡洋艦が一斉に数百発のミサイルを発射すれば、核兵器を使わなくてもテヘランは壊滅します。アメリカは、その力をイランに見せつけたのです。だからイランは、イスラエルに対して非難の声を上げるけれども、自ら手を出そうとしません。地中海を遊弋する2隻の空母、この現実が戦争の抑止力になったのです。
■国際航路の安全を確保するための報復攻撃 その代わりイランは、支援する武装組織を動かして“ちょっかい”を出しています。武装組織とは、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派のことです。たとえば2023年12月12日、フーシ派が紅海でノルウェー船籍のタンカーをロケット砲で攻撃しました。この船はイスラエルの港に向かっており、それを妨害するのが目的でした。 こうした攻撃が続いたため、アメリカ軍とイギリス軍がイエメン領内にあるフーシ派の拠点に報復攻撃を行いました(2024年1月12日)。アメリカの国防総省は「フーシ派の攻撃能力を低下させた」と発表しています。攻撃の応酬で中東の緊張感が高まりましたが、この報復攻撃はアメリカとイギリスがイスラエルを支援するというより、国際航路の安全を確保する性格のほうが高いと言えます。
フーシ派の兵力は約2万人で、イスラエルが射程圏内に入るミサイルを擁しています。そして、アメリカとイスラエルが「敵」であることと、ハマスとの連帯を公言しています。その後ろ盾がイランです。だからといって、イランがイスラエルとの全面戦争に踏み切ることはないでしょう。 イスラエルの核兵器とアメリカの空母2隻の存在が歯止めになっているからです。フーシ派による攻撃はイスラエル側の力を分散させ、ハマスを後方支援するための、あくまでも“ちょっかい”なのです。
つまり、イスラエルとハマスの戦いもロシア・ウクライナ戦争と同様に、第三次世界大戦につながることはないでしょう。ただし、どちらも第三次世界大戦への「危機的な状況」を招いたことは間違いありません。 ■恐怖が「次の戦争」に対する抑止力になる ウクライナとパレスチナで多くの血が流れ、それは今も続いています(2024年2月末)。そして悲惨な映像を見て、人々の間に危機意識と恐怖が生まれました。その恐怖が、「次の戦争」に対する抑止力になっています。2度の世界大戦を経験した人類が、その歴史から少しは学んだと言えるかもしれません。
池上 彰 :ジャーナリスト