【ルポ】「廃炉のためには仕方ない」「自分の努力ではどうしようも…」 迫る処理水の海洋放出 地元ならではの複雑な心境
政府は福島第一原発の処理水について、今月下旬にも海に放出することを検討しています。福島県では、「受け入れざるを得ない」という声もある一方で、根強い反発も。風評被害も懸念される中、現場から聞こえてきたのは、地元ならではの複雑な思いでした。
■今が旬「ホッキ飯」 いわき市の海鮮料理店では…
7月末、私たちが訪れたのは、福島県のいわき駅前の海鮮料理店。福島など地元の魚介などを使った定食が自慢のお店で、地元で採れたホッキ貝の刺身や、その出汁で炊き込んだご飯「ホッキ飯」が人気のメニューです。 ホッキ貝の刺身を食べた客(29) 「甘みがあってとっても美味しいですね。コリコリとした歯ごたえも好きですね」 ホッキ飯を食べた客(49) 「味もしみこんでて、本当にきっちりとご飯の方もしっかりと味がついていて、いつもの味って感じです」 福島のホッキ貝は今が旬。海鮮料理店の大川勝正社長(38)も「いわきのホッキは身が厚くて、甘みがあって美味しい」と胸を張ります。
■迫る“処理水”海洋放出 今月下旬にも
そんな中で迫っているのが、東京電力・福島第一原発の処理水の海洋放出です。 IAEA(=国際原子力機関)が先月公表した報告書では、処理水の放出計画を「IAEAの安全基準に合致している」と評価した上で、「人々や環境に与える放射線の影響はごくわずかである」と結論づけました。 政府は、処理水について今月下旬にも放出することを検討しています。岸田総理は18日の日米韓首脳会談にあわせアメリカを訪問し、現地で韓国の尹大統領に理解を求める考えです。その後、関係閣僚などと協議し最終的な時期を決める方針です。
■「自分の努力ではどうしようもない」風評懸念する漁師の声
私たちが話を聞いたのは、福島県いわき市の漁師、佐藤文紀さん(33)。7年前に地元に戻ってホッキ貝漁を続けており、先ほどの海鮮料理店でも佐藤さんたちが採ったホッキ貝が使われています。福島県でのホッキ貝漁は6月から始まり、翌年1月まで続くといいます。 今月下旬にも処理水の放出が検討されている状況については、「反対は反対です」と話しつつ、避けがたいことだとも感じています。 「(政府や東電の説明に)納得も賛成もしない。漁業者の理解が得られない限り流しませんって最初は言ってましたけど、結局いずれは流すんだろうなっていうのは感じてました」 佐藤さんが心配するのは、放出による風評被害です。 「専門家の方がちゃんと調べて、安全だっていうなら安全なんでしょうけど、それを証明されたところで、一般の消費者の人が安心して食べられるかといったら、そうじゃないと思うんですよ」 「風評とか魚が売れないってなると、もう自分の努力ではどうしようもない。そうなったときにしっかりとした支援というか、対策を考えてほしい」 政府は、風評被害対策として計800億円の基金を設けています。しかし、佐藤さんは、政府が説明する風評被害対策についても、基準が曖昧なため十分な支援を受けられるか不安だと話します。 「僕らが直に感じる風評被害と、数字だけで見るのとは、多少の違いは出てくると思う。そういったところをどう判断されるのかっていうのは、正直不安なとこではあります」