中学校教諭「常軌を逸した」長時間労働で自死 遺族側の訴え認められるも…控訴した市側の「かなりひどい」言い分とは
市側の主張「前任校でも長時間労働していた」
一審判決について、遺族側の代理人である金子直樹弁護士は、「非常に意義がある判決だと思う」と評価する。 「判決では、Aさんの長時間労働が、通常の精神疾患による過労レベルをはるかに超える時間と認定されています。毎月、Aさんは月次報告書を校長に提出していた。つまり校長は、Aさんの状況を認識しながら何も対応しなかったということが明らかです。実際、Aさんやご遺族の方には何ら、落ち度はなかったのですが、改めて判決で夫婦間のストレスなどでは過失相殺できないと、かなり厳しい口調で、こちら側の責任を否定していただきました」 しかし古河市側はこの判決を不服として控訴した。金子弁護士は「一審判決をほぼ100パーセント勝訴と認識しており、こちら(遺族側)から特に具体的な追加の主張はありません」と話す。 では古河市側は、控訴審で何を主張しているのか。 「かなりひどい話だと思うのですが、古河市は地裁段階から『Aさんは前任校でも同じように長時間労働していたのだから、亡くなった当時の勤務校での長時間労働がうつ病発症の原因ではない』と主張しています。控訴審では、前の学校の先生や部活の部員さんの陳述書を出したり、証人申請していました」(金子弁護士)
校長「教員の働き方は一般の方とは違う」
金子弁護士は、今回の裁判を通じ、政府が進める「教員の働き方改革」の考え方が現場まで浸透していない実態が明らかになったという。 「地裁段階で当時の校長の尋問を行いました。Aさんの長時間労働を認識していたことについては争いがありません。しかし、裁判になっても『教員の働き方は一般の方とは違う』とずっと言い続けていました。私から見れば、むしろ、生徒さんを預かっている立場なので、心理的な負担は大きいと思います。教員の仕事は“業務”ではなく、教員としての意気によって保たれているという考えが根底にある印象を受けています」 さらに、金子弁護士は部活動の指導が長時間労働に影響を及ぼしていることも指摘した。 「教員の働き方改革を進める上で、部活動の問題は重要だと思います。別件ですが、部活動の時間だけを業務委託に切り替えて教員に残業代を払わないようにしている私立学校もあります。部活動が長時間労働に結びついていることを(経営者や管理職が)軽視していることは、今回の古河市側の主張を見ても明らかだと思います」 「教員の働き方改革」という政府の方針の一方で、リアルな教育現場ではまだ「やりがい搾取」が横行し、貴重な人材である教員たちを追い込む長時間労働が見過ごされている。長時間労働を知り得た管理職の責任について、控訴審ではどのように判断されるのか、注目が集まっている。 ■渋井 哲也(しぶい てつや) 栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。自殺、自傷行為、依存症、少年事件。教育問題など。
渋井哲也