中森明菜復帰後の歌唱表情に見る36年前との変化 表情分析家が公式YouTube映像を解説
1988年当時、「言葉は強いけど、本心はお願いしたい気持ちなの」という意図を込めて歌われていたものと推測します。また、カメラ目線が多いことから聴き手に「届けよう」「届いてほしい」という気持ちが先行されていたように考えられます。 ■意識はどこへ向かっている? 一方、2024年4月に公開された「TATTOO」では、八の字眉や微笑、カメラ目線がないわけではありませんが、微細であまり目立ちません。目立つ表情は、閉じ気味の瞼。目線の先は、意識が向かう先です。瞼を閉じるということは、意識が自分に向かっていることを意味します。
閉じ気味の瞼に、時折生じさせる熟考表情、そして、微細な八の字眉、微笑。複雑な表情のコンビネーションです。意識を自己に向け、歌詞と曲と自己の歌声の重なりが生み出す複雑な感情を味わい、あるがままを表現している。このように考えられます。 興味深いのは、こんなふうに「歌詞を噛みしめながら歌われているのだな~」とぼんやり動画を観ていると、要所要所で、ドキッとさせられる。不意に気持ちが揺さぶられる瞬間です。
それは、予告なしにカメラに目線が向けられるときです。1988年当時と比べ、カメラ目線がデフォルトではなく、ポイントを絞った、厳選されたカメラ目線と言えばよいでしょうか。とはいえ、わざとらしさは感じられず、自然な流れの中で目線が向けられているように思われます。 彼女の目線がカメラに向けられるとき、観ている自分が観られている自分に変わる感覚を覚えます。彼女の目力と表現力ゆえでしょう。閉じ気味の瞼で自己対話をしながら歌い上げる彼女が、カメラ目線で、ときにいたずらっ子のような表情を、ときに妖艶な表情を見せます。
いたずらっ子のような表情のときは、ウィンクをしそうでしないギリギリの表情と微笑、そして、指を指す仕草。妖艶な表情のときは、微笑に加え、横目でチラリ。そして、それぞれの指をなめらかかつ巧みに動かし、手招きする仕草をします。 ■36年と3分40秒の曲 このように見ると、現在の彼女の歌い方のほうが、自身のアレンジが入りながらも、「TATTOO」のメッセージ性が表現されていると考えられます。 2024年現在、デビューから42年、「TATTOO」リリースから数えれば、36年。「【公式】中森明菜「『TATTOO-JAZZ-』」は3分40秒ですが、彼女の歌を聴けば聴くほど、「これは36年と3分40秒の曲なのだな」と思われてくるでしょう。是非、皆さんも何度も聴き、味わってみてください。繰り返し聴くたびに発見があるかもしれません。
清水 建二 :株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役