「4番の代打」と「最強8番」。キューバ戦勝利を呼んだ侍Jの仕事人
お膳立てができて、この日2安打、そのうち1本はタイムリーの小林に小久保監督は代打を送った。 「同点だとキャッチャーがそのままが基本線と考えていて、ラッキーボーイを代えることに迷ったが、ここが勝負だと。勇気をもって代打の切り札を送った」 WBCで明らかにグレードアップした小林に代打を送るのは、本来、セオリーには反している。キャッチャーとしての守りのリズム、リードもある。しかし、小久保監督は、あえて勝負手を打った。必ず1点を取る仕事人への信頼である。最低限の仕事は、外野フライ、或いは併殺とはならない内野ゴロ。最悪は、併殺打に終わることである。キューバの二遊間もゲッツー隊形である。 その信頼は、ときにプレッシャーに変わる。 「いつも以上に緊張して入った。(小林)誠司が2本ヒット打っていたので、監督も相当迷ったんじゃないかなと。2本打ったバッターに代打で出るのは相当の覚悟がいると思った」 内川は、狙い球を絞っていなかった。 ボールワンからスライダーをファウル。続くスライダーもまたファウル。そして、3球目のスライダーも内川は振りにいった。 「僕はそういうタイプじゃない。狙い球を絞って、それが外れたら気持ちで追い込まれるので、ストライクは全部振ってやるくらいの気持ちで立っている」 ストライクは全部振った。 覚悟は「何でもいいので1点を取る」という考え方に変わる。 外のスライダーを瞬間、右足を後ろにずらして、体のパワーをバットに乗せて、左手一本で右方向へとボールを運ぶ。ライト方向へ上がった打球の距離は十分だった。だが、ファウルか、フェアか、ラインぎりぎりの微妙な場所に飛んだ。 「捕ってくれという思いだった。1点取るか取らないかの大事な場面」 1点が勝敗を分ける大詰めの8回である。 セオリーならば、犠飛の可能性のあるファウルは見送ってキャッチはしない。だが、キューバの若いライトのメサは、ファイルラインを超えてキャッチして、全力でホームへスロー。そのバックホームは、大きくそれ、バックアップのアエラが捕球した。 「絶対にホームに帰る」とタッチアップのスタートを切った松田は無人のホームに滑り込んだ。 職人の一打だった。 東京ドームは、最高のボルテージとなる。その興奮が覚めやらぬなお二死一塁で、山田哲人のこの日2本目となる駄目押しの2ラン。もうキューバ軍団の戦意は喪失してしまったようだった。