二人の女児の遺体が発見された福岡県「飯塚事件」…久間三千年の死刑判決を巡る、警察・弁護団のせめぎ合いと予想外の結末
弁護団が提出した新証拠
福岡地方裁判所は再審請求についての決定を2014年3月31日に出すと通知した。弁護団がこだわり抜いたDNA型鑑定、さらに目撃証言の証拠能力について、裁判所がどのように判断するのか。 死刑が確定したあとで再審が認められ、その後無罪が確定した事件はそれまでに4件あったが、すでに死刑が執行された事件で再審が認められればはじめてのケースとなる。 この日、岩田弁護士は朝から、「緊張しますね。どっちか分からんから」と期待を高めていた。 再審請求審で弁護団は、筑波大学医学部の本田教授の報告書をはじめ、さまざまな「新証拠」を提出してきた。 2012年10月には本田教授の「第二次鑑定書」を提出、東京歯科大学の水口清教授の意見書、京都大学医学部の玉木敬二教授の意見書などを提出し、科警研のDNA型鑑定の不備を主張した。 認知心理学を専門とする日本大学文理学部の嚴島行雄教授は実際にフィールドワークを行って、車で短時間、すれ違ったときの状況をどの程度記憶していられるかの実験結果を鑑定書にまとめて提出した。 これに加え弁護団は前述の捜査報告書の記述の時系列から、八丁峠での目撃証言が警察官に誘導されたものである可能性が高いことを主張した。 弁護団はこれまでの活動に手応えを感じていた。 徳田弁護士 DNA鑑定が完全に捏造されているというふうに明らかになったと思いましたし、目撃証拠も、捜査官が誘導したものだということが基本的に明らかになっているので、もうこれで十分だろうというふうに思ったわけです。
期待を裏切る決定
しかしこの日、福岡地裁第二刑事部の決定は、その期待を裏切るものだった。 平塚浩司裁判長は再審請求を棄却し、その理由として以下のように判示している。 〈(繊維鑑定、車の血痕、アリバイの不存在などの)情況事実は、いずれも単独では事件本人を犯人と断定することができないものであり、その意味で、抽象的には、事件本人と犯人との結び付きに疑いを差し挟む余地が全くないわけではない。しかしながら、本件の犯人については、前記のように独立した多くの情況事実によって重層的に絞り込まれているのであり、事件本人以外に、こうした事実関係のすべてを説明できる者が存在する現実的な可能性は非常に乏しく、抽象的な可能性にとどまるものと考えられ、全証拠を精査しても、かかる人物が存在するのではないかという合理的な疑いを抱かせるような事情はうかがわれない〉 〈(弁護団提出の)本田鑑定書等のうち信用性が肯定できる部分を前提とすれば、確定判決が有罪認定の根拠とした(科警研の)酒井・笠井鑑定等のうち、MCT118型において犯人の型と事件本人の型が一致したとの点は、そのまま有罪認定の根拠として供することはできないとしても、MCT118型において犯人の型と事件本人の型が一致しないことが明らかになったものではなく、両者が一致する可能性も十分にあるのであるから、MCT118型の点以外の情況事実にこれを併せ考慮した場合であっても、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされているといえる〉 弁護団の主張はことごとく認められなかった。
木寺 一孝(映像作家、ディレクター)