『不適切にもほどがある!』本人を投じた“八嶋智人イジり” 宮藤官九郎による巧妙な仕掛け
俳優の八嶋智人が、2月9日『プレサタ』の愛称でおなじみの生放送バラエティ番組『つつみんの!プレミアムサタデー』(EBS)に登場。当初、舞台宣伝のためにゲスト出演するはずだったところ、急遽メインMCを務めた。その安定感のある進行っぷりにオンエア開始直後は静かだったSNSだが、番組が進むにつれて「#八嶋無双」がトレンド入りするほどの注目を集めた。 【写真】テレビの司会を進行する(八嶋)八嶋智人 ……と、なんだか本当のネットニュースになっていても違和感のない話題だが、こちらは金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)第3話での出来事だ。だが、八嶋が本人役で登場し、「前からずーっとテレビに出てるような気がする人」という持ち前の存在感を見事に発揮したことで、現実にも「八嶋智人」「八嶋さん」がX(旧Twitter)にてトレンド入り。ドラマと現実が交錯する盛り上がりを見せた。 1986年と2024年を行き来し、令和の「ここが変」を昭和のコンプライアンス無視の切れ味で斬っていく同ドラマ。第3話の舞台はテレビの世界だ。「チョメチョメ」や「ポロリ」などエロが堂々と発信されていた昭和のテレビと、コンプライアンスを重視するあまりに全てが「ハラスメント」になってしまうような気持ちになってしまう令和のテレビは実に対照的。令和の世界を覗いたことで、昭和に生きる男・市郎(阿部サダヲ)は、かつてはなかった視点に気づく。 それは、自分の娘・純子(河合優実)が深夜番組に出演したときのこと。それまで女性たちに対して、性的な視線を向けることになんの疑問を持たずに過ごしてきた市郎だが、純子がテレビに出演し好奇な眼差しを向けられることが我慢ならなかった。だが、そんな市郎に対して令和のフェミニスト・サカエ(吉田羊)は、どんな人も誰かの娘・息子であるのだと諭す。 その感覚は「どこからがハラスメントなのかわからない」と迷う現代人にとってもひとつのガイドラインにもなるかもしれない。どの女性に対しても「自分の娘だと思って接する」というのは、あくまでもひとつの視点。要は、想像力を働かせよ、ということなのだろう。 考えてみれば、テレビとは想像力のプロたちが集結する場所だ。一般人が日常生活では決して見ることができない景色や、考えもつかなかった面白い体験をお茶の間に届けていく。エンターテインメントとは、そういうものであるはずだ。だが、いつしか劇中でテレビプロデューサーの栗田一也(山本耕史)が、「“かーわーいい~”の言い方、セクハラです。伸ばさず、歯切れよく“かわいい!”これでお願いします」と、八嶋のほとんどの発言に注意をしていたように、どこからも指摘を受けないことが目的にすり替わりつつある。せっかくの想像力がリスク回避に全振りされてはいないか。そんな問いかけを感じずにはいられなかった。 もちろん、誰もが不快にならない配慮は大切だ。多くの人が演歌とけん玉を「なんか見れちゃんだよな」と眺めるのも間違いではない。だが、すべての番組が、演歌とけん玉や、グルメばかりになってしまっては、「テレビがつまらない」と言われても仕方ない。なにも昭和に戻って過激なことをやれと言っているのではない。視聴者の想像を超えてくる創造を目指していく気概があってこそ、テレビが面白くなるのではないか。 ちなみに、第3話で八嶋智人が生放送のラスト30秒で告知をした劇団カムカムミニキーナの舞台『かむやらい』は、実際に八嶋が出演するガチの宣伝という。これもひとつの想像を越えた仕掛けといったところだろう。また、これほど本人を投じて“八嶋智人イジり”をするということは、脚本家・宮藤官九郎との関係性も深いのではと思われるが、意外にも「初クドカンドラマ」と本人がXでポストしているというのもまた驚きだった。 そして、劇中で「ミスターしれっと」と自称していた台詞ともまたリンクしていることに気付かされる。まさに「前からずーっとクドカンドラマに出てるような気がする人」を地でいく人だなと、また一段階笑いが込み上げた。他にも、ロバートの秋山竜次や山本博が、持ち味を生かしたキャラクターとして登場してくるところも絶妙だった。秋山扮するズッキーはいわゆる昭和のテレビスターで今の時代では考えられないほどセクハラし放題の人。だが、緊急事態には真面目で紳士的な顔をのぞかせるのだ。 一方、山本が演じたつつみんこと堤ケンゴは、6股交際疑惑というスキャンダルをすっぱ抜かれるものの、逃げることなく自らスタジオに乗り込み彼なりに筋を通してきたことを訴える。つい一面だけを切り取られ、話題に上げられがちな人にも「実は……」な部分はある。その想像力を働かせることも、また現代の視聴者に失われがちなものなのかもしれない。 そして、「想像力」が育むのは、何もテレビだけの話ではない。子どもの夢だってそうだ。第3話ではタイムマシンを開発した井上(三宅弘城)が、実は市郎の教え子だったことが判明する。ちょうどタイムスリップを体験した直後だったからこそ市郎は、井上の夢を頭ごなしに否定することなく素直に応援することができたのだが、このタイミングの良さは果たして偶然だろうか。 そして、市郎が2024年の世界で出会った渚(仲里依紗)とキスをしようとすると、ビリビリッと弾け飛んでしまう現象。どうやらこれが井上の話していたタイムパラドックスだという予想はつくが、市郎と渚の距離が縮まることで未来がどう変わってしまうというのか。視聴者の想像をはるかに超える展開が待っていることを期待しつつ、次回を待ちたい。
佐藤結衣