「くうきをつくる」青木淳さん 「設計+α」で培った建築論
「壁は何色に見えますか。より白く見せるために実は、グレーに少しラベンダー色を混ぜているんです」。自らが設計した背景のビルを見上げながら、建築家は話した。その言葉に、繊細な建築へのこだわりの一端を垣間見た。
1956年生まれ。世界的建築家、磯崎新さんの事務所を経て、91年に独立した。青森県立美術館、ルイ・ヴィトンの店舗外装などを手がけ、『原っぱと遊園地』など、しなやかな思索に富んだ建築論も著してきた。
本書では、2018年以降の新聞や雑誌に掲載した建築についての文章を中心にまとめた。その間、改修を担当した京都市京セラ美術館の館長や、東京芸術大教授に就くなど仕事の幅が広がった。「60歳を区切りにして、0歳に戻ったつもりで設計以外のことをやってもいいかなって」
「0歳に戻ったつもりで」
運営にも興味を持ちながら、これまで多くの博物館や美術館の設計に携わってきた。実際、館長になってみると、「建築には造形だけでなく、関わる人たちの気持ちも大事な要素だった。分かっているつもりでも、見えていなかった。もっと広く物事を考えることを学んだ」。
大学教授は今年3月で退任したが、館長職は続く。加えて、実績主義になりがちな現在のコンペ(設計競技)の傾向を改めて、若手に門戸を開こうと、公共建築の設計者選びの審査員も引き受けるようになった。本人は意識していないと言うが、審査員として多くの若手に飛躍のきっかけを与えてきた師・磯崎さんの姿と重なる。
建築とは、発注者や利用者、施工業者などみんなの力を合わせて、空間や環境を変え、より良い「空気」を作ることだと考えてきた。「おまけの人生」が広げた視野で補強した建築論が、本書には詰まっている。(王国社、2200円)森田睦