「膨大な仕事量で…」同意ないまま障害者の支援計画作られ・・・家族ら「ショック」 1人で“100人超担当”の人手不足や発達障害の子ども急増、問題相次ぐ背景
行政側も「問題があった」などと認識
3市町村はいずれも、同意署名欄が空欄だったことについて、「行政が最終的な同意の有無を確認できない点で問題があった」と認める。小布施町と高山村は「署名を必須とするよう改めた」とし、須坂市も必須とする方向で検討している。
利用者の急増…増える業務
「担当者が膨大な相談支援を抱え、受給者証の発行が遅れるかもしれないと焦りを募らせていた」。計画の署名欄に「本人確認済み」と虚偽の記載をした相談支援専門員が勤める須坂市の事業所は、取材にこう答えた。
須高地域では、近年4カ所の相談支援事業所が休止か廃止となった。同地域の複数の専門員は、高い専門性が求められる業務に対し、国からの報酬は十分とは言えない―と指摘する。慢性的な人手不足の中、放課後等デイサービスを使う発達障害のある子どもなど利用者は急増している。
「一手間省いてしまうことも…」
同地域の専門員の1人は周辺市町を含め100人余の相談支援を担当。計画の作成や更新が重なる年度初めは連日、利用者宅や事業所に足を運び休みはない。昼夜問わず電話で利用者の話を聞くなど報酬に含まれない業務も多く、「計画に本人や家族の同意をもらう一手間を省いてしまうことがどうしてもある」と明かす。
本人や家族の意思の軽視 虐待などにつながる懸念
ただ、同地域の別の専門員は今回の問題について「行政と専門員のなれ合いも一因」と指摘。「障害福祉の中心に据えるべき人権感覚は絶えず点検しないとすぐにかすむ」と話す。県内では昨年10月、入所者への虐待があった佐久市の民間障害者支援施設で事業者に作成が義務付けられている「個別支援計画」が未作成と疑われる事案が発覚。今回明らかになった問題も、本人や家族の意思が軽視されることで虐待などにつながる懸念をはらむ。
保護者らの不安は強い。計画の同意署名欄に虚偽の記載をされた重度障害がある男性の母親は取材に「ショックだった」。専門員への信頼が揺らぎ「親亡き後に影が差し、安心して老後を過ごせない」と話す。一方、知的障害がある長女の計画について同意を求められなかった小布施町の女性は「保護者も制度の仕組みを理解し、課題を一緒に考える視点を持ってはこなかった」とし、実情を踏まえた解決策について関係者が集まり、議論する場を求めている。(篠原光)
【サービス等利用計画】
2012年成立の障害者総合支援法で、障害者がサービスを利用する際に作成が求められるようになった。相談支援専門員が作ることが多く、日常生活での本人や家族の希望や長期・短期の目標、本人の解決すべき課題、支援の内容や目標を具体的に記す。市町村は専門員から計画を受理した後、本人に受給者証を発行。計画は本人が実際に利用するサービス提供事業者にも交付され、事業者はこれを基に「個別支援計画」を作成する必要がある。