『虎に翼』が伝える“踏みとどまる”ことの大切さ 戦争を次の世代に伝えていくために
映画になるような複数の題材を一週間に凝縮した吉田恵里香の手腕
第18週で点描された日本と朝鮮の問題、長岡空襲、総力戦研究所、こういった出来事に関しては、ひとつひとつ、なんなら独立した1本の物語が作られそうではある。朝鮮人と日本人との関係は昨年、関東大震災に端を発した朝鮮人虐殺に迫った映画『福田村事件』が公開され、注目された。虐殺事件はNHKのドラマを映画化した『風よ あらしよ 劇場版』でも言及されている(監督は、来年度の朝ドラ『あんぱん』の演出を手掛ける柳川強)。総力戦研究所は、2021年、劇団チョコレートケーキが、総力戦研究所の人々を青春群像として描いた『帰還不能点』を上演、今年の7月、相模原、札幌、函館、旭川、釧路でも公演を行った。長岡空襲は、2012年に公開された大林宣彦監督の『この空の花 長岡花火物語』が有名であろう。 2時間ほどかけて描かれる題材を複数盛り込み、1週間、15分×5=1時間15分で描く。脚本家の手腕には毎度、脱帽するものの、いささか粗いように感じることも否定はできない。ただ、すべての物事が単独で成立するのではなく、大なり小なり連鎖していることが、このドラマの妙味でもあるのだ。ピンボールゲームのように思いがけないところに弾かれて進んでいくように、世界の出来事はつながっているのだと感じさせる。だからピンボールゲーム場が発火して焼けた状況は示唆的にも感じる。ひとりひとりが、衝動を踏みとどまることが必要なのだという願いは十分、伝わってくる。 たとえ、ひとつひとつの説明が少なめであっても、 SNSが発達した時代、題材に興味を持ったらすぐに触りは調べることができる。また、映画やテレビドラマを早送りしたり飛ばして観たりすることが多い若い世代にとっては、ひとつひとつを丁寧に、行間を作って描いたドラマは、飽きて観なくなってしまうかもしれず、印象的な単語や台詞があるだけで、若者は何かを受け止めることができるのかもしれない。 また、戦後派の若者たちの考え方や生き方と、戦中派の大人とのディスコミュニケーション問題を代表する森口美佐江(片岡凜)は、虐殺、空襲、敗戦などとどう関連してくるのか、第19週の展開にも注目したい。
木俣冬