新型GRヤリスの走りはやっぱり楽しい!!! 和製ホットハッチの進化に迫る!!!
余分な動きが削ぎ落とされている
ピットロードを飛び出して、1速から2速にシフトアップ。従来型でもシフトフィールに不満はなかったけれど、手応えが大幅に良くなっていることに気づく。カチッとした節度感があるのに滑らかにシフトできるというのは、“丸くて三角”みたいに矛盾しているけれど、ホントにそうなのだ。 試乗後にエンジニアに尋ねたところ、従来型は高速でシフトレバーの動きが渋くなるという弱点がレースの現場から指摘されたため、内部のスプリングを調整したという。なるほど。 1.6リッターの直列3気筒エンジンは、最高出力が従来型の272psから304psへ、最大トルクが370Nmから400Nmへと、それぞれ強化された。ただし、新旧をおなじシチュエーションで乗り比べて感じるのは、パワーアップしたというより、レスポンスが良くなったという点だ。 特にコーナリング中に微妙にアクセルペダルを踏んだり戻したりするときの反応が、くっきりと鮮やかにドライバーに伝わってくる。ドライブモードを「NORMAL」から「SPORT」に切り替えると、カミソリの切れ味が2割増しぐらい鋭くなる。 コーナーで感じるのは、コーナリングフォームがすっきりしたということだ。従来型も“安定”と“俊敏”が高いレベルでバランスしていたけれど、進化型はそこから余分な動きが削ぎ落とされている。 ややマニアックになるけれど、ボディとショックアブソーバーを締結するボトルの数を1本から3本に増やしたことや、スポット溶接の打点数と接着剤の塗布面積を増やすことで、シャシーとボディを強化しているという。 健全なるコーナリングフォームは、健全なるボディに宿る。手先のチューニングではなく、根っこの部分から改善を図っているのだ。
GR-DATの完成度に驚く
続いて、新開発の8段AT仕様を搭載する進化型に試乗する。従来型GRヤリスはCVT(無段変速機)を採用していたけれど、2ペダルで本気でMTと戦えるように、そしてモータースポーツ参加者の裾野を広げるために、「GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)」を開発したという。 結論から書くと、これほどストレスなくスポーツ走行ができるATはなかなか見当たらない。まず、単純にシフトスピードが速くてシフトショックが小さいから、気持ちよく走れる。さらに、あえてマニュアル操作をしなくても、ここぞ! という場面でギアを落としたり、シフトアップしたり、かゆい所に手が届くようなタイミングで変速してくれる。 ブレーキペダルの踏み方と抜き方、アクセルペダルの踏み方などを細かく見張って、クルマの挙動が変化する前に、先まわり、先まわりでシフトの準備をおこなうように制御しているという。 スポーツカーに関しては熱心なMT信奉者である筆者も「これならイイかも」と、思う出来栄えの8段ATだった。 おもしろいのはマニュアルモードにした時のシフトレバー操作の向き。引くとシフトアップで、押すとシフトダウンと、従来の逆だ。加速時はシートに押し付けられるから引く、減速時は前につんのめるから押す、という具合にGの方向に合わせた変更で、レーシングカーのシーケンシャルシフトとおなじインターフェイスだという。 と、ここまでお読みいただいて、「いやいや、自分、サーキット走行とかしませんから」と、思う人はいるはずだ。しかしですね、レースでの過酷なバトルからのフィードバックを反映すると「こんなにも気持ちよく走るようになるのか!」というのが試乗を終えての率直な感想だ。 正直、筆者もレースに出るわけではないので、何秒か速くなろうが遅くなろうが、そこには興味がない。けれども、従来型と比べた進化型GRヤリスは、速くなったというより、雑味がなくなって洗練されたという印象だった。 試乗会からの帰りに頭に浮かんだのは、開高健が釣りをするときの心得として残した「心はアマチュア、腕はプロ」という言葉だ。レースやサーキットに縁がないアマチュアのクルマ好きでも、GRヤリスのようなクルマを乗りこなせるくらいの技術があれば、クルマ趣味はさらに楽しくなる。もっと練習しよっと。
文・サトータケシ 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)