【ユニコーンS・生情報】「はっきり言って、僕のことはどうでもいいんです」〝穴太郎〟野中の覚悟 アラレタバシルで結果を残したい理由
[GⅢユニコーンステークス=2024年4月27日(土曜)3歳、京都競馬場・ダート1900メートル] 連日、季節外れの陽気が続く。昨日までつぼみだったはずのツツジが、ピンクや白に咲き誇り、青々と茂った葉っぱとのコントラストが目にまぶしい。ジャンパーを脱ぎ、汗をハンカチで拭いつつ、根本厩舎まで足を運ぶ。 お目当てはユニコーンSに挑むアラレタバシル。ダートに替えての4戦が1、2、1、2着で、2着時はいずれもアタマ差。もちの木賞で惜敗したアンモシエラは、ダート3冠の初戦・羽田盃でも2着に粘り込んだ。ならば、この馬にもチャンスがあっていいだろう。 快く取材に応じてくれた鞍上・野中は「前走の伏竜Sはいかにも休み明けの雰囲気でしたが、よく走ってくれました。この馬はキックバックもモマれるのも問題ありません。1回使ってピリッとしてきて、前走より状態がいいですね。キャンターはやる気がない馬なのですが、最終追いの動きがとても良かったですね。京都は経験しているし、輸送も100メートルの延長も問題なさそうです。楽しみですね」と自信をのぞかせた。 そして、ここから突如として表情が変わる。「はっきり言って、僕のことはどうでもいいんですよ。もちろん騎手として重賞を勝ちたい気は十分ありますが、とにかく先生に重賞を勝ってほしい。ただそれだけなんです。騎手としてこんなことを言っていいのかわかりませんが、極端な話、僕ではなく菜七子でも誰でもいいんです」 思わず本音が漏れた。師匠の根本調教師は定年まであと2年足らず。騎手時代に日本ダービー、中山大障害を制し、ここぞという大舞台にめっぽう強い偉大なジョッキーだった。ただ、トレーナーになってからは重賞に縁がない。 根本調教師は野中、藤田菜七子のほかに、最年長の丸山、そしてルーキーの長浜と4人の弟子を取っている。自身の持つノウハウを叩き込み、次代の競馬界を担う人材の育成に真正面から取り組んできた。最近は弟子を取らない調教師が増え、騎手はフリーというドライな関係が主流。昔ながらの徒弟制度は下火になっているが、根本師は時代に逆らうかのように、後進の育成に心血を注ぐ。損得勘定のない、心と心の通じ合い。野中はそんな師匠の思いを理解しており、厩舎が一丸となってレースに臨む。 「先生は騎手時代に芝の(日本)ダービーを制していらっしゃいます。ここでダートの(東京)ダービーも勝てば、中山大障害と併せて、騎手・調教師を通じて芝・ダート・障害ともGⅠを制覇したことになるので、ぜひここで権利を取って先に進みたいですね。育ててくださった先生には心から感謝しています。去年から厩舎は勢いがある(今年6勝)ので、僕もこの流れに乗って恩返しがしたいです。チャンスはあると思いますよ」(※中山大障害がJ・GⅠ格付けになったのはグレード制導入後の1999年) 芝のダービージョッキーの弟子がダートのダービージョッキーに。師匠譲りのテクニックを武器に、人気薄の馬を幾度となく勝利に導いてきた〝穴太郎〟が、ビッグな夢を胸に淀の砂上を駆ける。
垰野 忠彦