「ちくしょう、労働のせいで本が読めない!」「いや、本を読む時間はあるのにスマホを見てしまう」 社会人1年目の文学少女が受けた“仕事と読書の両立のできなさ”のショックとは?
本を読む時間はあるのに、スマホを見てしまう
正直、本を読む時間はあったのです。電車に乗っている時間や、夜寝る前の自由時間、私はSNSやYouTubeをぼうっと眺めていました。あるいは友達と飲み会で喋ったり、休日の朝に寝だめしたりする時間を、読書に充てたらいいのです。 だけど、それができなかった。本を開いても、目が自然と閉じてしまう。なんとなく手がスマホのSNSアプリを開いてしまう。夜はいつまでもYouTubeを眺めてしまう。 あんなに、本を読むことが好きだったのに。 そういえば最近書店にも行ってない。電子書籍も普及してきて、その気になればスマホで本が読める時代なのに。好きだった作家の新刊も追えていませんでした。なんだか自分が自分じゃないみたいだった。だけど翌朝電車に乗ると、またSNSを見るだけで、時間が過ぎる。同級生は器用に趣味と仕事を両立させているように見えるのに。 私には無理でした。 働いていると、本が読めなくなるのか! 社会人1年目。そんな自分にショックを受けました。が、当時の私にはどうすることもできませんでした。 結局、本をじっくり読みたすぎるあまり─私が会社をやめたのは、その3年半後でした。 今の私は、批評家として、本や漫画の解説や評論を書く仕事に就いています。会社をやめたら、やっぱりゆっくりと本を読む時間がとれたのです。それゆえに今は、たくさん本を書く仕事ができている。ですが今の読書量は、あのまま会社員を続けていたら無理だっただろうな、と思います。会社で働きながら充分に本を読むことは、あまりに難しいからです。
本を読む余裕のない社会って、おかしくないですか?
こんな経験をネットに綴ったところ、大きな反響がありました。私のもとに、さまざまな「私も働いているうちに本が読めなくなりました」という声が集まったのです。 本書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、2023年1~11月にウェブサイト集英社新書プラスで連載した内容に加筆修正したものです。ウェブ連載をしているとき、一番私のもとに集まった感想は、「自分もそうだった」という声でした。 「私も働き始めて、本が読めなくなりました」「私の場合は音楽ですが、働き始めるとなかなかバンドを追いかけられなくなりました」「本を読もうとしても、疲れて寝てしまって、資格の勉強ができないんです」 そんな声がたくさん、たくさん寄せられました。 「ああ、働いていると本が読めなくなるのは、私だけじゃなかったんだな」そう感じました。そもそも日本の働き方は、本なんてじっくり読めなくなるのが普通らしいのです。そういう働き方がマジョリティなのです。たしかに週5日はほぼ出社して、残りの時間で生活や人間関係を築いていたら、本を読む時間なんてなくなるのが当然でしょう。 しかし──私は思うのです。 「いや、そもそも本も読めない働き方が普通とされている社会って、おかしくない!?」